「……………」

 ゆめと一緒に美咲とそらちゃんを見つめるあたし。  

 そらちゃんが遊園地って誘ったはずだけど、意外に二人は乗り物にはあまり乗らなくて一緒に歩きながら話をするのがほとんどだった。  

 まぁ、その少ない一つにメリーゴーランドがあったのには美咲に関心。

 あたしならいくら何でもそんなのには乗れない。

 ただ、そのメリーゴーランドを含めて、初めは美咲がする一つ一つに反応してゆめとちゃかしたりしてたあたしだったけど、時間が経つにつれてあたしの口数は段々少なくなってくる。

 ほとんど話ししかしてなくて、あまり近づけないからそれもほとんど聞こえなくてつまらないというのはその原因の一つではあるけど。

「随分、楽しそうだね。美咲は」

「……うん」

 一番はこれ、かも。

 美咲とそらちゃんが屋外のカフェで休憩する中、あたしとゆめも少し離れたところで軽食をとって二人を観察する。

 そらちゃんとデートをする美咲は楽しそうに見えた。

 終始笑顔ってわけじゃないけど、笑ってる。楽しそうに笑ってる。美咲がそう思っているのはわかる。あたしが思うんだから絶対間違いない。美咲がどんな風に思ってるかなんて手に取るようにわかるんだから。

 そらちゃんとはまるで本当の姉妹みたい。それはそれで、別にいいんだけど……

「……彩音? どうかした?」

「ん……なんでも」

 ゆめは別に美咲とそらちゃんのことは何とも思ってないようで、元気のなくなったあたしにたまにこんなことを聞いてくる。

 そう、なんでもないはず。

 そらちゃんと美咲が仲良くしてようが冷静になれば気にすることじゃないんだから。

(けど、なんつか……)

 美咲があたしやゆめ以外の前であんなふうに笑ったりするなんて……そりゃ普通は美咲を遠くから観察することなんてないから、他の友達とかといるときもこんな風に笑ったりするのかもしれないけど…………

(何、何なの。これは)

 胸がムカムカする。そらちゃんにでも美咲にでもなくて、不快な感じが体を駆け巡る。

(………………)

 あたしと美咲は、ほとんど生まれたときから一緒で、美咲のことは何でも知ってるはず。あたしが美咲を好きなのも、美咲があたしを好きなのもどこか当たり前って思ってて……

 でも、美咲はあたしがいないところでもあんな風に笑ってて……

「…………」

 二人を、楽しそうな二人を見つめる。

「っ……」

 ガタン!

 あたしは急に自分が恥ずかしいような、むなしいような感じがして乱暴に立ち上がった。

「ゆめ、いこ」

「?」

 そして、まだ飲み物を飲み終えてなかったゆめを促して勝手に歩き出す。

「……うん?」

 ゆめは急にあたしがそんなことを言い出したのに首をかしげながらもすぐにあたしの後ろについてきてくれた。

「……もう、いいの?」

「…………ん。まぁ、ほら、あきた」

「…………そう」

 あたしの本心を隠した台詞にゆめは気づいてはいたんだろうけど追求はしてこなかった。

 その後は、適当にゆめとデートをする。

 せっかく来たんだからってジェットコースターをはじめ定番のものあたりには乗ったりしてたけど、あたしは軽い自己嫌悪に陥っていてあまり笑顔にはなれてなかったと思う。

 だから、ゆめもそれに釣られるようにただでさえ多くない口数がさらに少なくなって妙な時間を過ごした。

「じゃ、最後に観覧車でも乗る?」

「……うん」

 お金を払って入場したんだからって色々乗っては来たけど……やっぱりこんなんならさっさと帰ったほうがよかったかも。

 そんなことを思いながらあたしとゆめは赤い色のゴンドラに乗り込んだ。

 カタカタと音を立ててゆっくりと宙に上っていくゴンドラ。

「……彩音」

 ゴンドラが天頂に着かないうち対面のゆめがどこか心配そうに話しかけてきた。

「……………」

 それは耳には入っているはずなのに、なんだか反応できなかったあたし。

「…………彩音」

 ぎゅ。

 ぼーっと徐々に小さくなっていく景色を眺めていたあたしの視界がゆれたかと思うと体が暖かな感触に包まれる。

 どうもゆめに抱きしめられているみたい。

「ゆめ、どうしたの?」

「……彩音が、元気ないから」

「……そう、見えた?」

 つか、当たり前か。

「……うん。でも、美咲はそらよりも彩音のこと好き」

「……うん。ま、それはわかってるけど……」

 けど……

「あたしってそんなにわかりやすい?」

 けどのあと、続く言葉は別にもあったはずなのにあたしはこっちを選択した。ゆめに言いたくないというよりも、自分で口にするのが嫌だった。

「……彩音のことなら全部わかる」

「……そだね」

 あたしだってゆめのことは何でもわかるつもりだし。

「……美咲は彩音のことほんとに大好き。だから、彩音が心配してるようなことは、ない」

(……あたしってそんなにわかりやすい?)

 さっきゆめに言ったことを今度は心の中だけで思う。

 美咲が将来的にあたしよりもそらちゃんを好きになるなんてありえないとは思っても、今日の美咲を見てゆめが言ったようなことを思ったのも……情けないけど嘘じゃない。

「……私も、美咲も嫉妬はするけど、そんなこと思ったりはしない」

「っ」

 そっか。

「……そっか」

 そういうこと……か。

(……昨日あんなこと思ったのにな)

 言葉にはしなかったけど、美咲のこと信じてるって思ったくせに。

 これが本音だったのかもしれない。二人がデートしてるの、デートしている美咲を見たら……嫉妬、した。もしかしたら、美咲にはあたしといるよりも嬉しいこと、楽しいことがあるんじゃないかって頭をよぎってそれをあたしは認めたくなかった。

 そらちゃんみたいな子供嫉妬する恥ずかしい自分。そして、

 そらちゃんみたいな子供に嫉妬するほど

(……美咲のこと好きなのか、あたしは)

「はぁ〜……」

 あたしはゆめの腕の中で大きなため息をつく。

 空気と一緒に胸に溜まっていたもやもやしたものを吐き出したあたしはくたーと脱力感に襲われる。

「ゆめ、あんがと」

 つか、ゆめは慰めてくれてんだよね。今日は怒ってたはずなのに。

 今からでもちゃんと笑わなきゃ。

 あたしは、ゆめに感謝しながら抱きしめてくれてる腕を取ろうとした。

「……うん。でも」

 でも、その前にゆめが離れたかと思うと。

「ん……」

 柔らかな触感が唇に押し当てられていた。

「ん、ふは……私が彩音のこと好きなのも忘れちゃ、だめ」

 キスの後、ゆめはいじけたような顔で、とんでもなく可愛い発言をしてきた。

(ほんと、今日はゆめに悪いことしちゃったな)

 朝、デートって嘘ついて呼び出したのをはじめに、デートスポットに来ながら二人を追い回して、それをやめて二人きりになっても無粋な顔して。

 しかも、美咲に嫉妬してるところを見せてばっかりだったんだし。

「ごめん、でも」

 あたしはまだ赤くなってるゆめの小さな指に絡ませる。

 そして、そのまま距離をつめると今度はあたしからゆめの唇を奪った。

「ん……」

 ちょっと甘いゆめの唇。さっきゆめが飲んでたジュースかな。こんなんじゃ余計にキスがやめらんなくなっちゃうっての。けど、

「……んっ……ふ、は…はぁは」

 あたしがゆめの味を楽しんでいるとゆめはいきなりのキスで息苦しくなったのか、あたしはまだ物足りなかったのに逃げられてしまった。

「はっ、は……はぁ」

 ゆめはキスすると全神経を集中するのかちょっと長いキスをするとすぐこうして真っ赤な顔で激しく息を整える。

 それだけキスを大切に思ってもらえてるってことなんだからこんな姿を見せられちゃうとその分ゆめへの気持ちが高まっちゃうわけで。

「忘れるわけないでしょ、ゆめ、大好き」

 あたしはその高まった思いのままもう一度ゆめの体を引き寄せる。片手は指を絡めたままもう片方を腰に回して、三度……

「……だ、だめ」

 キスといきたかったのにゆめは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。

「いいじゃん。こんなんじゃ足んないかも知んないけど、もっと今日の穴埋めさせてよ」

「……ダメ」

「えー。あたしとキスすんの嫌?」

「…………そういう言い方は……だめ」

「じゃ、オッケー?」

「……ダメ。外で、こんなこと……恥ずかしい」

「はじめにしてきたのはゆめじゃん」

「っ〜〜。とにかく、ダメ」

 ゆめはそう言って体を離そうとするけど、

 ぐっ。

 あたしは腰にまわしてる手に力を込めてゆめを密着するほどに引き寄せた。

「逃がさない。っていうか、観覧車の中でどこに逃げるって言うのかなぁ?」

「……み、ぅ……」

 恥ずかしそうに困ってるゆめの顔をあたしは見つめる。

 さっきみたいな不意打ちはともかく、普通ならゆめが了承してくれない限りはキスしたりしない。

「……ぅ〜」

 それにこうして羞恥心に揺さぶられるゆめを見るのはたまらなく幸せ。

 人前で恥ずかしくなるようなことを平気で言ったり、さっきみたいにたまに大胆になったりするかと思えば、一端場が落ち着くとゆめは急にこういうことに関して恥ずかしがり屋になる。

「……………………………………ちょっと、だけ」

「ん?」

「……少しするだけ、なら、いい」

 頬を紅潮させて、羞恥に瞳を潤ませるゆめは天使のように愛らしく、愛しく、あたしは絡めている手に優しく力を込めるとその天使の唇に情熱的なベーゼを

(っと)

 しようとしたところであたしは手を離してゆめを解放した。

「??」

 もうキスのことしか頭になかった天使ちゃんは何でそんなことをされたのかわからず、何か自分があたしの機嫌でも損ねちゃったのかって不安そうな顔をしていた。

 その仕草に思わず抱きつきたくはあったけど、

「ん」

 あたしは名残惜しいながらも外を指差した。

「残念、時間切れだね」

 指の先の風景はすでに下界といってよく、こんなところでキスでもしてたら外から丸見えになっちゃうとこだった。

「……う……」

「そんな残念そうな顔しちゃって、恥ずかしいから嫌だったんでしょ? ならいいじゃん」

「……別に、そんな顔してない」

 ふふふ、ほとんど表情に出さなくなっていじけるように寂しがってるのは手に取るようわかっちゃうんだよっと。

「また、今度二人きりのときでね」

「……バカ」

 こうしてちょっと時間は短かったけどあたしとゆめのデートはやっぱり幸せなものだった。

  

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