「あのさー、そらちゃんなんか言ってた?」
ゆめの家からも帰って、夕飯も勉強もお風呂も終わらせた、寝るまでの凪の時間。あたしはベッドにごろごろとしながら美咲にちょっと気になってたことを聞いてみる。
「さぁ? どうかしらね」
机で本を読んでた美咲は顔を上げないまま含みのある言葉を返す。
「どうかしらって、なんで内緒にすんのよ」
「別に内緒にしてるわけじゃないわよ。……まぁ、でも彩音は聞かないほうがいいんじゃない?」
余計に気になることを言っておいてそれはないでしょうが。
「ま、いいけど。でも、何であたしあんなに嫌われてんのかな」
「何でって、いきなり襲われもすれば嫌いにもなるでしょ」
「あれは事故みたいなもんじゃん」
「それに今日のゆめのことも、まぁ嫌われる要素は満載よね」
「今日のだって、ちょっとふざけただけじゃん。あのくらい嫌いになるっていうのもひどくない?」
だってそうでしょ。最初のはびっくりさせちゃったかもしれないけどさ、あれだってゆめだと思ったたんだからしょうがないし、今日のだってありえるスキンシップでしょ? それなのにあそこまで本気で噛んだりしてきたら悲しいし、ちょっと理不尽だよ。
「……ふぅ」
今まで本に視線を集中していた美咲だったけど、ため息をつくとパタンと本を閉じてあたしを見つめてきた。
「……彩音なんで【そう】なのかしらね?」
「は?」
怒ってるような、あきれたような顔でベッドに上がってきた。
美咲が何を言ってるのかわからないけど、背中に悪寒っていうか、ぞくっとした。たまに美咲はこういう風に不機嫌になる。しかも、怒りが爆発って感じじゃなくて、ぐつぐつと弱火で煮えたぎってる感じ。
ムニ。
「あにすんのよ」
美咲がほっぺをぐにーっと引っ張ってくる。地味にかなり痛いから勘弁して欲しいけど、こういう時にへたに逆らうともっと機嫌悪くなるんだよね……
「まぁ、そらちゃんの代わりにね」
「は?」
「そらちゃんはあんたに言いたいことも、してやりたいこともあるけど耐えてるのよ。だから少しくらい報いを受けなさい」
報いって……今日噛まれたばっかなんだけど。
「ようはそらちゃんはあんたが邪魔なのよ」
そういうと美咲はあたしのほっぺを離して背を向けた。
「邪魔?」
「少しは自分で考えてみさない。今日はもう寝るわ。お休み」
「あ、う、ん?」
まだ機嫌が悪いのは治ってない様子で美咲はそういうと勝手に電気を消して布団に入ってしまった。
(…………じゃま、ね)
真っ暗になった部屋であたしは美咲から言われたこと考えてみる。
これまでの様子からして、あたしがゆめと美咲と仲がいいのが嫌なのかな。そらちゃんってあんまり友達とか多くなさそうだし、ゆめのことお姉ちゃんだなんて慕ってるみたいだし。仲のいい人は特別なのかも。それに今日なんてそらちゃんはゆめを助けたはずなのに、ゆめがあたしを庇っちゃったからね。よくなついてる美咲もなんだかんだであたしに味方しちゃったし、そういうのが嫌なのかな。
……嫉妬、か。子供だからとか関係なくそういうのってあるかもね。本気で思ってるわけじゃないけどあたしだって美咲とゆめが二人でばっか話してたりしたら寂しく思ったりもするからね。
まぁ、今は美咲をそらちゃんにとられている様な状況だけどさすがにそらちゃん相手にはそんなこと思ったりしてない、はず。
(でも……そんなこと思われても困るよね)
美咲やゆめと一緒にいるなっていわれてもそれは絶対に無理なことだし。
(でも、できれば仲良くしたいな、っと)
そんなことを思いながら眠りにつくあたしだったけど、結局思うようには行かないのだった。
でも、そらちゃんのおかげというか、せいであたしに思わぬことを考えさせられることになる。