「それでは!! 皆様、二学期も終了し、冬休みに入れたことを祝しまして……かんぱーい!!

 寮長さんの声がベージュ色の壁に囲まれ、パーティー用にお化粧した食堂に響きわたる。

『かんぱーい!!

 次いで、その食堂にいる生徒たちがそれに続く。

 その後は各自、自分たちで用意した料理やらお菓子を前にしておしゃべりに花を咲かせる。

 寮でのパーティーはいつもこんな感じ。

 実は、今日はクリスマス。なのに、食堂の中は人で溢れかえっていて、暖かな雰囲気に満たされている。

しかも、いつもの寮でもパーティーよりも遥かに人が多く異常なまでのざわめきを見せていた。

「あ、あの……わ、わたし本当にお邪魔してもよかったんですか?」

 私の隣に座る美優子もその理由の一人。

 学校からのお達しで生徒はクリスマスに家族以外と外で過ごすことを禁止されている。家から通う生徒はそんなのお構いなしに、思い思いの人と過ごすらしいけど、寮生は宮古さんがいる以上学校のほうに報告されてしまう上、宮古さん自身から

「問題起こしたらあたしのせいになるんだから絶対に寮からでないこと」

 と、厳命されてしまった。去年破った生徒はその後一ヶ月放課後はもちろん休日でも外に出ることを一切許されず、さらには寮の清掃をこれも一ヶ月やらされたらしい。

「なーに、いってるの。ほかの人だって友だちとか呼んでるのにみゅーこがだめな理由なんてあるわけないでしょ。それとも私の誘いじゃ迷惑?」

「そ、そんなことないです!

 んで、外に出るのにだめな代わりに、普段のパーティでは寮内の親睦を深めるためとして、寮生以外参加不可だけどクリスマスの今日だけは特別に友だちを呼んでいいことになってる。

 呼ばれる友達も、あとでここ以外で外にいたことがばれるとまずいから来る人はかなり多い。

 だから、いつもは全員がそろってもまだ寂しい感じのする食堂が今日はすべてのテーブルが使われにぎやかな感じになっている。全盛期の寮はこんな感じだったのかな、と余計な感慨もわく。

「っていうか、そもそも美優子なんて普段の日でも寮に来てるんだからもう半分寮生みたいなものでしょ。今さらなに気にしてるのよ」

 これはせつな。通常六人座れるテーブルで、あたしの隣じゃなく向かい側に座って美優子に呆れたようにいう。

「そうそう。美優子ちゃんがいたほうが私も楽しいよ」

「梨奈はいつでも、楽しそうな気がするけど?」

「それが以外にそうでもないんだよね。あたしと部屋いると結構すぐ癇癪起こしたりするんだよ」

「なつきちゃん? あんまり変なことみんなに吹き込まないようにね?」

「…………はい」

 ま、人が増えても結局はこんな風にいつものメンバーで私たちは楽しく過ごすのだった。

 

 

 宴もたけなわ。

 いろんな人が入り乱れて、気付けば先輩だろうと、今まで話したことない人だろうと気兼ねなく話をしていた。

「ん………?」

 そんな中、私は一番気にしてる人が見当たらないことに気付く。

 人の波の中その人を探してみるけど、やっぱり食堂の中に見当たらない。

 どこ、いっちゃたんだろ? 

「涼香」

 少し不安になりながらも懲りずに美優子を探していたらせつなに話しかけられる。

「なに?」

「……美優子なら、さっき外出て行ったわよ」

「え? 何で?」

「ちょっと疲れたから、ロビーで休むって。行ってあげれば?」

「……うん。ありがと」

 クールに教えてくれたせつなに背中を向け、私は美優子を探しに食堂を出て行った。

 どこのロビーにいるかは知らないから、食堂のある地下から一つずつ探していこうと思ったけど。

 なんか、思ったより廊下に人がいる。逢引ってわけじゃないだろうけど、やっぱり仲のいい友だちだけと静かに話したいっていうのもあるもんね。私も美優子と話がしたくて今探してるんだし。

 地下で発見できなかった私は一階も見に行くけど、そこでも見つけられずもう一つ上に上ってみる。

「あ」

 と、そこでやっとロビーのイスに座る美優子のことを発見できた。

「みゅー……」

 手を振って名前を呼んでみようとしたけどまだ私のこと気づいてないみたいでちょっといたずら心がめばえる。

 トントン。

 私は美優子に気がつかれないようしのびあしで美優子に近づくと肩を軽く叩いた。

私のシナリオとしては振り返った美優子のほっぺに私の人差し指がふにっていくはずだったんだけど……

「ひゃあ!?

 悲鳴を上げられちゃった。

「うわっ。っと」

 それに驚いて私も声を上げる。

「あ、涼香、さん」

「あはは、ごめんね。そんなに驚くとは思わなくって」

「い、いえ。わたしこそ、すみません」

 私は美優子の隣に座るとそのまま美優子の顔を覗き込む。

 ちょっと疲れてるの、かな? 表情に蔭りがあるような気がする。

 今まで学校に来てなかったんだからたくさんの人がいるのとかはあんまりなれてないのかも。私も色んな人と話してて美優子とあんまり話せてなかったし。

 少しの間無言になって、互いに様子を窺う形になる。

 私たちの座ってる距離は、なんだかものすごく微妙な距離な気がする。普通の友だち同士が隣に座りあうよりは近いだろうけど、恋人同士みたいにぴったりくっついてるってこともない。

 微妙な空間。何か見えない壁でもあるような圧迫感。意志によって縮まれもすれば長くもなる二人の距離。

 私はここからどうしたいんだろ。

「みゅーこ、疲れちゃった?」

「い、いいえ……えと、はい。少し。こういうの、初めてなので」

 なんで最初否定したんだか。私に嘘をつきたくないってこと、なのかな。

「誘わないほうがよかった?」

「そ、そんなことないです。クリスマスを涼香さんと……その、たくさんのお友だちと過ごせて嬉しいです」

「私も、美優子が来てくれて、その、嬉しかったよ」

 ……生ぬるい言葉だね。もどかしさすら感じる。

「あ、ありがとうございます」

 ただ、美優子はそんな私の中途半端な言葉にも可愛らしいはにかみを見せてくれる。

 でも、美優子が元気ない理由は疲れてるからじゃない気もする。

(私と二人きりがよかった、からとか?)

 それがまず始めに思い浮かぶけど、なんだかしっくり来ない気もした。あの、私の告白からそろそろ一ヶ月。美優子は、それほど積極的になることもなくただ自然な感じに私の側にいることが多くなった。

 私も美優子のことを今まで以上に気にもかけるし、休みに二人きりで遊んだりも何回かはした。でも、私たちの距離は精神的にも肉体的にもあの告白以来は進んでいない気がする。

 きっかけが必要なのかどうかは知らないけど、あの告白は明らかなきっかけで、このクリスマスも一般的に考えればきっかけになることだろうからそれが美優子は残念なの、かも。

 と、考えていたけどそれは違った。

「あの、涼香さん」

「なに?」

「涼香さん、もうすぐ帰っちゃうんですよね……」

 美優子はそこで一層表情を暗くした。

 そっか、それなのかな。原因。

「あ、うん。ま、まぁさすがに今回は帰らないと、さつきさんがうるさいし。っていうか、そもそも寮が締められちゃうし」

「そ、そうですよね。ちょっと、寂しいですけど、そっちのほうがいいですよね」

「で、でも年明けたらすぐ帰ってくるよ。その、電話、とかもするしさ」

 こういうとき携帯持ってないと不便に思うな。いつでもどこでも連絡が取れたりしないから。

 私は美優子が私と会えないことを寂しく思って暗くなっていたのかなと思っていたけど、それもまた違った。

「い、いいえ。わたしのことじゃなくて……涼香さんが……えっと……その……」

「もしかして、私が一人でさつきさんのところに帰ったりなんてしたら泣いちゃうんじゃないかとか思ってるの?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「みゅーこ。その反応はそうだって言ってるようなもんでしょ」

「あ、う……」

「あはは、大丈夫だって。昔からずっとそうだったんだから今さら数日くらいどうとでもできるよ」

「あ……はい……」

 美優子は私の軽口に頷きはしてくれたけど、どこか釈然としない感じだった。ただ、それでも私のことを心配してくれてるんだっていうのは伝わってきた。

「美優子、ありがとうね」

 私は美優子を真摯に見つめて笑顔になった。

 自分のことよりも私なんかのことを考えてくれる。私は美優子のそういう優しいところが好きなのかもしれないな密かに思うのだった。

 

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