じぃぃい。
涼香さんの帰った部屋でわたしはあるぬいぐるみをベッドに置いて視線を合わせている。
オレンジの鬣が素敵なライオン。名前はひぃちゃん。小学生のときに買ってもらっていつも一緒だった。
わたしの一番のお気に入り。
だけど……
「ひぃちゃん……ずるい」
今は大嫌いっていうより、うらやましい。
わたしはくちを尖らせながら、ひぃちゃんの頭をちょっと強くポンポンって叩く。ぎゅむって顔がつぶれて普段から変な顔がさらにおかしくなる。
「涼香さんと何話したの?」
「……………」
「涼香さん、わたしのこと、なにか言ってた?」
「……………」
「いえないようなことだったの?」
「……………」
「ひぃちゃん、涼香さんに抱きしめてもらうなんて……ずるいよ。わたしなんて、あの日以来、抱きしめてもらってないのに……」
そういうの涼香さんが軽々しくしないのは、それだけわたしのこと大切に思ってくれてるんだって思えるけど……でも、寂しい。
「……………」
「え? うん、いいの?」
「……………」
「うん、ありがとうひぃちゃん」
わたしは一人でひぃちゃんと会話すると、今度はひぃちゃんをもってぎゅーって抱きしめた。
ふわふわな毛皮があったかくて、鬣がほっぺに触ってくすぐったい。
それと………
「えへへ……、涼香さんのにおい……」
気のせいかも知れないけど、優しい香りがする。ひぃちゃんを抱きしめているだけで涼香さんのことを感じられる。
はしたないかもしれないけど、すぐ口元が緩んじゃう。
「いつかまた、してくれるかな」
「…………」
「応援してくれるの?」
「…………」
「うん、まずはお弁当、がんばらなきゃ。だって涼香さんにあれ、するんだもんね。おいしく作らなきゃ」
「…………」
「ありがとうひぃちゃん。ずるいなんていってごめんね」
わたしはひぃちゃんのことをナデナデしながら、ちょっと前に涼香さんにナデナデされたことを思い出して、またにや〜っとしちゃうのだった。