わけがわからないままふらふらと二人のところに向かっていく。

 なんで、なんでなんでなんでなんでなんで………なんで!!!

 どうしてさつきさんが美優子と一緒にいるの? 美優子の言ってた用事ってこれ? さつきさんが美優子に何の用なの?

 何の用? そんなの決まってるじゃない。今さつきさんが美優子に話すとしたら……あの女が関係してるにきまってる。

(ふ、ざけないで!

 美優子に何をいうつもり! 美優子を巻き込むつもり!?

 そこまでするの! あの女のためにこんなところまで来て美優子に会いに来て……

(……っ。本当に私のことなんてどうでもいいんだ……そんなにあの女のほうが大切なんだ……)

「……………」

 ドクン。

勝手な理由を想像して、勝手に頭を沸騰させていた私は急に動悸を感じた。

(っ……)

 なに、これ。

 嫌な予感、悪寒。

 ドクン。ドクン。

 二人のところに近づくたび背筋が凍りついたように冷たくなって、理由のわからないまま体は震えだす。

 ドクン、ドクン、ドクン。

 心臓が早鐘を打つ。うるさいくらい。

 それでも私は止まらない。

 嫌な感じがしても、体が恐怖に震えても、心臓が破裂しちゃいそうなくらいに跳ねても、

 私は二人の前にたった。

「っ! すず、か」

 先に私に気づいたのはさつきさんだった。

「すずか、さん」

 すぐに美優子も驚愕しながら私を見つめる。

 この時の私はすでに冷静さを欠いていた。まとも状態じゃなかった。激情に任せて自分のことしか考えられなかった。

 美優子を無視してさつきさんだけを私は見つめる。

「なに、してるの? どうしてここにいるの? なんで美優子と会ってるの?」

「……これ、は……」

 このときのさつきさんはらしくなかった。妙におどおどして、私と目すら合わせようとしなくて。

 私はそれを見てはいるはずなのに認識しない。

「あの、女のこと……話してたの……?」

「…………」

 さつきさんは私の目は見ずにコクンと小さくうなづいた。いつも強くて何もかもはっきり私にいうさつきさんにしては変だとは感じた。

 それにこのとき涙を浮かべているってことも視界には入った。だけど、そんなことの追求よりも、今抱えている不満と不安を撒き散らすほうが優先だった。

「何で!? どうしてあの女のことを美優子に話すの!? ううん、そんなことよりこの前の電話なに!? さつきさんからの電話だったはずなのに、なんであの女の声がしたの!?

「す、ずか……」

「何で今さら、あの……女の声を聞かなきゃ……いけないの……? ……さつきさんが協力しなきゃ、できないよね? あんなの。あの、女に……協力したの……?」

「……っ……ごめん」

「っ!!?

 否定してもらいたかった。そんなことないって、言い訳をしてもらいたかった。

なのに、ごめん? 認めるの!?

わかる、わかってるつもり。これだけがさつきさんの本音じゃないっていうのはわかってるつもり。

 でも、私は激情に支配されてさつきさんのことになんか気が回らない。

「は、は、…は…、なに? あの女と話せっていうの? 会えとでも、言うの? 今さら……そんなことさつきさんが言うの?」

 涙も震えも抑えられない。

「…………………………………………」

「否定してよ! 違うって言ってよ! どうして黙るの!? 私が言ったことが本当だから!?

「……………………………………」

「なら、なんで私をあの女のところから連れ出したの!? 今さら私を裏切るんなら、始めから助けなければよかったじゃない!!

 ここがお店の中だとか、それで店内の視線を一身に集めているとか一切頭から消えうせて、私は御することのできない感情をぶちまけた。

「…………………」

「……なに、か、言ってよ……」

 何も言ってくれないさつきさんに私もそれを搾り出すのが精一杯だった。

「あ、の、涼香さん」

 私が言葉を閉ざすのを待っていたかのように美優子は恐る恐る私に声をかけてきた。

「……あは、ごめんね。美優子。さつきさんに何か変なこと言われなかった?」

「あの……」

「ね、これからどっかいこっか。美優子はこの人に用なんかないでしょ?」

「……っ!!

 さつきさんが顔を背けながら体を震わせたのに私は気づかない、見ないふり。

 いらない。もうこんな人なんて。あの女に味方するような人なんて。

美優子がいてくれればいいもん。美優子は私を裏切ったりしないもん。

「ほら、美優子」

 手を伸ばした。誘うように……助けてっていう代わりに、美優子に手を伸ばした。

 美優子はその手を両手で包み込んで……それだけだった。

「ね、行こうよ……」

 裏切ったりなんか……

 手を包んでくれる美優子の手は暖かいはずなのに、体中の震えは止まらなかった。予感が、朝美優子から電話が来たときに感じた予感が、どんどん大きくなってる。膨らんで、破裂しそう。

「あの……涼香さん」

 美優子は戸惑いながらも、力をこめて私を見つめた。

「……お話、聞いてあげてください」

「え……?」

 何、言ってるの?

 話、聞けって……さつきさんのこと? 私を裏切って、あの女の味方をする人なんかの話を……?

(美優子が……美優子、まで……そんなこというの………………………)

「………………………………………………………………………」

 わけ、わかんない。何、これ? これって現実? こんなことってあるの? 世界で一番好きで、信頼していた二人に一片に裏切られるなんて……

(っ!!!!!??

 心が砕けた音がした。不安や恐れ、不信、恐怖が心の許容量を超えて心を食い尽くした。

「な、んで、美優子まで……そんなこというの? 美優子、知ってるじゃない、私のこと……なのに、そんなこと言うの……」

「涼香さんっ」

 美優子が私の手を包む手に力を

「離して!!

 その瞬間私は美優子の手を振り払った。

「涼香、さん」

 もう一度、美優子が私に向かって手を伸ばしてくる。

「触らないで!!

 何が起きてるか理解できなかった。理解したくもなかった。

 さつきさんと美優子に裏切られたっていうことが重過ぎて何も考えることができない。

「いや、いや……」

 何に対しての拒絶だったのか自分でもわからない。目の前にいる二人のことが恐ろしすぎて、そういった私は二歩、三歩を後ろに下がって………

「いやぁああああ!!!

 そのままお店を飛び出していった。

 

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