「………………………話、聞かせて」
まだ恐怖は消えていない涼香が小さく言った。
まずは、嬉しい。涼香が心を開いてくれたということだから。
ほんの少しだけ涼香を握る手に力をこめた。
(………………あったかいな、涼香の手)
私の手はいつも冷たいからこうして涼香の手を握るのは好き。暖めてもらえた。心の底から体の芯まで。気持ちを通じ合わせて握っていられたのは短な間でしかなかったけど、この嬉しい気持ちは嘘じゃない。
これから先どうなろうとこの気持ちが私の胸にあったことは決して消えない。
例え、この手を離しても。
「……?」
私がゆっくり涼香の手を離すと、涼香は表現に難い表情をした。不安そうな、困惑しているような、私が離したことを不思議に思っているような感じだ。
涼香の心を開かせたのは美優子だけの力じゃなくて、私の気持ちもあったからと自負する私は涼香のその表情は理解できるつもり。
ただ、私が涼香の気持ちを理解できても涼香が私の気持ちを理解するのはたぶん、無理だと思う。
「……美優子」
「は、い?」
「………………………あと、よろしく」
私はどちらの顔も見れずに伝えると立ち上がった。
「せ、つな……?」
「朝比奈、さん……」
「話、二人でしなさいよ。私がいてもどっちの力にもなれない。それに、涼香には少しでも集中して話を聞いてもらいたいから」
そのためには話すのは美優子のほうがいい。そして、私がそこにいる必要は、ない。
「それじゃ、涼香。話、ちゃんと聞いてよね」
悔しくも寂しくもあった。さっきとは違う理由で泣きそうでもあった。
(それ、でも……)
一歩、一歩がすごく重い。
ドアまでの距離が遠くにも、近くにも感じる。
(私は、涼香の力になれた)
私のためにじゃなくて、涼香のために。
だから、悔しくて寂しくて悲しくて、泣きそうでも。
嫌だけど、嫌じゃなかった。
嫌では、なかった。
それは、私の本心だ。
「っ……」
ドアノブの冷たさが涼香からもらった熱を奪う。
少し力を入れればノブが回り、ドアを押せば扉が開く。それは当たり前のことだけど、私の気持ちしだいでこのドアは開かずの扉にもなりえた。
(……涼香、愛してる。【私】になったときから、今も、これからも)
涼香を好きな気持ちは消えない。
私は目を瞑りながら扉を開けた。
その瞬間
2「待って!」
と涼香の声が聞こえた。