…………時間的にはそろそろだと思うけどなかなか改札の向こうから待ち人は来ない。
いっそこのまま来なくていいのに。
隣いる美優子は、緊張してるのかそわそわとしてて落ち着かないみたい。さっきまでは、私が腕を握ってたからそのせいかもしれない。
「あ、あの友原さん……」
「ん、なに?」
私も緊張はしてるけど、美優子がいてくれるってことで少しはやわらいでる。正確に言えば友達の前だから虚勢を張れているだけなんだけど。
「え、と……さつき、さん……ってどんな……あ、いいえ、あの……」
「どしたの、みゅーこ。そっちがそんなに緊張する必要ないでしょ?」
異様なまでにおどおどしてる美優子を見るとある意味せつなよりよかったと思わないでもない。美優子がこんなだから、なおさら私がちゃんとしてなきゃって思うもん。
「みゅ、みゅーこ? あ、緊張してるわけじゃなくて……友原さんが……あ、いいえ、や、やっぱり気のせいだと思うんでいいです」
「え? なによーもぅ」
そんな風な言い方されたら気になるじゃない。何が言いたかったのか知らないけど、いいたいことがあるならちゃんと言ってほしい。こういう所、美優子はやりづらい。
私は、美優子に気づかれないように小さくため息をついた、その時
「すーずかー」
(っ!!?)
あの人の、さつきさんの声がした。
焦る自分の心に落ち着けと、隣には美優子がいるんだからと、言い聞かせる。
長い睫毛に整った目鼻立ち、髪は美しく艶やかな黒髪。スレンダーな体で、長く伸びた足が印象的。これでスーツにミニスカートなら、見た目はクールなキャリアウーマンって感じ。
……我ながら例え古いだなぁ。それに、あくまで「見た目」はだし。
それと、もう一人。中肉中背だけど、どこか知的で柔和な雰囲気をかもし出す男の人。名前は、隆也さん。実際、いろんなことしってるし、料理もできて、すごく優しいっていうのを私は知ってる。
二人は並んで歩きながら向かってきてて、さつきさんの方は私に一回大きく手を振ったあと私の隣にいる美優子のことを興味深そうに見る。
ちなみに美優子は怖いのか恥ずかしいのかは知らないけど、いうまでもなくその視線をまともに受けてとめられてない。
「涼香―、ひっさしぶりー、元気だった?」
ガバッ!
さつきさんは話せる距離まで来るといきなり強くハグしてから、私の頭に手を乗せて乱暴に撫でてきた。
私は髪が乱れるのも気にしないでさつきさんの好きにさせる。昔から、こうやってされるのは慣れてるし、それに……やっぱりこうしてもらえるのは嬉しい。
少しすると開放されて、私はちょっとふらふらになりながら二人に挨拶をする。
「もぅ、この前電話したばっかでしょ。……ふぅ。久しぶり……さつきさん、隆也さん」
「お久しぶりです、涼香さん。そちらの方は、涼香さんのお友達ですか?」
「は、はいっ。西条 美優子って言います」
美優子は意外にもしっかりとした口調で答えた。もっと、緊張してしどろもどろになるかと思ったけど。
「いいでしょ? 一緒にいても」
「そりゃ、もちろん。へぇ、美優子ちゃんね……」
さつきさんは美優子のことをまじまじと見つめる。
「は、はい……あの、何か?」
じぃっと見つめられるのを不安に思ったのか美優子は一歩私に擦り寄ってきた。
「あぁ、ごめんごめん。涼香が今どんな子と一緒にいるのかなって思って。この子、電話とかでもあんまり学校のこと話してくれなかったから。あ、自己紹介が遅れたわね。私は、雨宮 さつき。涼香の保護者ね」
「ちなみに、戸籍上でいうと叔母さんだから」
「……「おばさん」って呼ぶなって言ってんでしょ。私はまだ二十台よ」
「本当のことじゃない。それに、二十台っていってももう三十と同じ様なもんでしょ」
「……すっずかぁー」
「さつきさん、そのくらいしておかないと。彼女、困ってますよ。それに僕の紹介をしてくれると助かるのですが」
隆也さんはさつきさんをなだめるようにして、美優子のほうを向かせる。美優子は私たちのよくわからないやり取りに黙って見つめていた。
「そうね。で、この人は隆也っていって、ま、私の旦那さん」
「なんですか、その一応みたいな紹介は。ふぅ、あぁすみません。隆也です。よろしくお願いします」
隆也さんはどこぞの貴族のように紳士的な微笑みを浮かべて美優子に頭を下げた。
「あ、は、はい」
「挨拶はこれくらいにして早く御飯食べにいこうよ。結構この辺混むんだよ。私としては御飯が一番の目的なんだから」
「うわっ、なによ。私たちよりも御飯のほうが大事だっていうの?」
「そ、女子高生のお財布はいつだって火の車なんだから」
「あいっかわらずなまいきねー。ま、いいわ。立ち話してても疲れるだけだし。どっか入りましょうか」