あぁ、あのあと何、話したっけ? 

 ファミレスから出たあとも美優子に連れられた公園にいって学校を眺めて、また話したりとかしたけど、なんか内容は何も覚えてないや。

覚えているのは、私が一番嫌いな私に戻って笑顔の仮面をかぶり続けたってことだけ。

「……ふぅ。も、こんな時間か……」

 駅の改札近くでさつきさんは大きくため息をついた。駅は時間が中途半端なせいかあまり人はいなくて待ち合わせのときのような耳障りなざわつきはない。

「しかたないでしょ二人とも忙しいんだもん。いつまでもこっちにいるってわけにはいかないでしょ?」

 変わりにもっと目に入れたくなくて、聞きたくない二人がいる。

「ま、そうなんだけどね……私だってまだまだ仕事休む気はないし……あのさ、涼香……うー、……」

「さつきさん、言いたいことははっきり言っておいた方がいいですよ」

 いいずらそうにするさつきさんの心を見透かしたように隆也さんが促した。

「わ、わかってるわよっ!

 その光景が私の仮面を厚くする。

「……冬休みは、ちゃんと帰ってきなさいよ。あんたいないと……やっぱ、寂しいから……」

「うん……ま、考えておく」

「あんったねぇ、こっちが素直に言ってあげてるんだからあんたも素直に『うん』って答えなさいよ」

「あはは、わかったって」

 私は軽く頷いて二人から距離をとった。

 ここで「うん」って言っておかないときりないもんね。ま、今こんなこと言ってもその時にならば色々理由なんかつけられるんだし。

もぅ……とにかくさっさといなくなってよ。

(………完全にスイッチはいっちゃってるな私)

 でも、これ以上この二人の姿を見ていたくない。

 幸せそうな二人を。

「さて、そろそろ時間ですね。涼香さん、お元気で。あと僕からもいいますが冬休みには帰ってきてくださいよ。さつきさんをなだめるのは大変なんですから」

「はーい」

「それと、美優子さん。涼香さんのことよろしくお願いします。こう見えて脆いこともありますから」

「は、はい……」

 隆也さんは私と美優子に頭を下げる。まったく最初から最後までどこまでも紳士的な人だ。

「美優子ちゃん、私からもお願いね。涼香って危なっかしいところもあるから、美優子ちゃんみたいな子がいると私たちも安心なのよ」

「あー、もうっ! 二人して私の心配なんてしなくていいから、ほらっ早くいかないと電車来ちゃうよ」

 私は無理やり二人に後ろを向かせて、バンバンと背中を押した。私はとにかく明るく、大丈夫だから早く行ってよと無言で訴える。

「はいはい、わかったわよ。んじゃ、最後に……」

 さつきさんは、心を落ち着かせるようにして一回目をつぶって、

「私だって涼香の声聞きたくなるときがあるんだからたまにはそっちから電話してきなさいよ、バカっ!!

 と、大きな声でいって、恥ずかしさから逃げるように背中を向けて改札を通っていった。

「……………………」

 残された三人は呆気をとられたままさつきさんの後ろ姿を見つめる。

「………まぁ、そういうわけですから、涼香さん、お願いします。それでは失礼します」

 一拍置いたあと隆也さんも改札の向こうへと消えていく。

「じゃあねー、あ、体に気をつけてねーーーー!!

 二人に向かって大きく手を振ると二人も一度振り返って手を振り返す。私は二人がまた前を向いて歩きだしても、姿が消えてもその方向を見続けた。

名残惜しいんじゃない。

むしろいなくなってせいせいするくらいなのに、視線が外せない。

(……これでもう、平気、だよね………)

 でも、このまま寮に帰る気もおきないからどっかで時間つぶそう。……心が落ち着けるまでは。

「なんだか、さつきさんて、涼香さんのお友達って感じですよね」

 と、まだ美優子がいたんだった。

「あれは、ただ子供なだーけ」

 私は美優子に向き直って笑顔を作る。

 遠足は家に帰るまでが遠足。

美優子と別れるまでは「美優子の尊敬する私」でいなきゃ。

「今日はありがとね。まぁ、美優子のほうは色々疲れたかもしんないけど、やっぱいてくれてよかった。何かあとでお礼するから」

「い、いえ。わたしも楽しかったから、そんなこときにしてく……!? と、友原、さん?」

 美優子は何故かいきなりびっくりしたような声を上げた。表情も愕然としている。

「どしたの?」

「ど、どうしたって……」

 わたわたと慌てる美優子。

 私も頭に「?」を浮かべる。

 突然どうしたんだろ美優子は? たまーに、よくわからないこと言ったりする子だけど今はほんとにわからない。

「あ、あの……なんで、泣いてるんですか……?」

「は? なにいって…………ぁ……」

 意味不明なことを言うなと思ったけど、一応頬に手を当てたら生暖かい雫が手についた。

 それを信じられないような目つきでみる。

 しまった……

二人がいなくなって安心したら気が緩んでしまっていたらしい。

(やだ、とまん、ない……)

一回意識しちゃうとあとただ溢れるばかりだった。いくら瞼を押さえたってそこから雫がこぼれていく。

 とめなきゃ、美優子に怪しまれる前に止めて大丈夫だって言わなきゃ。

(………………………だめ、できない!!

「なんでもないっから、私……もう、帰る、ね。バイ、バイ……」

 どうしようもなくて私はここから逃げようとした。

「ま、待ってください!

 その腕を美優子に掴まれる。

「え、えっと……」

 呼び止めたはいいけどどうするべきかわからない様子で美優子は目を泳がせる。

「あ、あのわたしの家来ませんか? ここから、すぐ、ですし……」

 どうすればいいかわからないけど、泣いてる私を放っておくことはできない。美優子はそんなことを思ったのか私が腕を引こうとしても離してくれない。

 ……ここで逃げても、同じ、か。どうせ美優子には泣いてるところを見られてるんだから、それにこのまま帰るなんてできないし、泣いてるままじゃどっかに寄り道だってできない。

「……うん」

 私は頷くと美優子に連れられてバスターミナルに向かった。

「…………っ」

 駅構内からでると、まだ強い日差しが照りつけてきた。見上げると、残暑と初秋の間のような空が広がっていて、空と青さと雲の白さが美しかった。

(……あぁ、空はこんなに晴れているのに、どうして私の心にはこんなに雨が降ってるんだろう……?)

 

 

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