週末の放課後、私は人の少なくなった教室で机に頬杖をついていた。

 用があるんじゃなくて、週番で日誌を提出に行ってるせつなを待ってるだけ。

「はぁ〜〜〜」

 悩み事があるときにため息をついたところで何の意味がないってわかってるけど、やっぱり自然に出ちゃう。

 みゅーこ、今日も寮に来るよね……

 最近は勉強のほうがおまけで遊びに来てる感じだけど、今週は一回も私とせつなの部屋に来てくれない。それどころか、美優子が梨奈の部屋とかロビーにいるときに会いに行っても明らかに避けられてしまってる。

(ちゃんとあやまりたいのにな)

 ああも怖がられたんじゃやりづらい。美優子はもちろん、私だって聞かれたくないけど意図的に二人きりなるのも結構難しい。私は学校でも寮でもほとんどせつなと一緒にいるし、美優子は学校じゃ教室からあんまりでないし結構梨奈といる。

 無理に二人きりになろうとすれば何のことか聞かれるだろうしそもそも美優子に逃げられるかもしれない。

「う〜」

 私は頬杖をついていた腕で今度は頭を抱えた。

 美優子のことを悩んでるおかげでさつきさんのことをあんまり引きずってないのだけは救いというか、唯一助かってるところではあるけど。

(でも、ほんとにあんなことしちゃうなんて……)

 そりゃさつきさんのことでへこみまくってたし、話聞いてもらったり、泊めてもらったり、しかもあんなお願いまで聞いてもらってありがたくはあっても、キスする理由なんてまったくないでしょ。

(……私のバカ)

「涼香、おまたせ」

 腕を戻し、また頬杖をして頭を悩ませていると、せつなが戻ってきた。

私は一端思考を中断してすぐにせつなと一緒に教室を出て行った。

「涼香さ、また美優子に何かしたの?」

 靴を履き替えて外に出るといきなりそんなことを言われた。

「べ、別に何も……」

「…ほんとかしら? この一週間美優子が明らかに変だったけど。この前…美優子の家に泊まったのよね。その時に何かあったんじゃないの?」

 心なしかせつなの声に不安そうな色が混じっている。

「な、何もないってば、ご飯食べたらすぐ寝ちゃったし。それに……客間に一人で寝かせてもらってたんだから、何にもあるはずないでしょ」

 実際は美優子と同じベッドで寝てたし、「何か」どころじゃなかったけど、せつなには話せるわけない。例え誰かに相談することがあるとしてもせつなだけにはいえることじゃない。

 美優子にキスしちゃったなんて。

「…………そう」

 せつなは怪しいと勘ぐってるのか無言になってしまった。私も何とかうまく誤魔化そうといい訳を探しながら寮へと向かっていく。

(……せつなだって妙に思ってるし、やっぱ美優子に早くあやまらなきゃ)

 でも、会うと逃げられちゃうんじゃどうしようもないんだよね。

(せめて、何かきっかけでもあればいいんだけど)

 どうすればいいなんて思いつかないし。

「あ……っと、ごめん」

 考え事をしながら歩いていたら、私とせつなの手が触れ合ってしまった。相変わらずのヒンヤリとした触感を感じてすぐに手を引く。

あやまることじゃない気もしたけど私ならいきなり触られるのはちょっと嫌だから思わずごめんといってしまった。

肩とか、ふざけて腕組んだりするのはそうでもないのに、手と手だとなんだか意識しちゃう。

 手を繋ぐ=恋人みたいな風潮があるせいかもしれない。

(最近は、女の同士でも結構するんだっけ?)

 そんなことをテレビか何かで見た気もする。私はしたいなんて思わないけど。

「…………ごめんなんていわないでよ」

「ん? 何か言った?」

 横でボソっとせつなが何か言った気がしたけど小さくてよく聞き取れなかった。

「…何でもないわ」

「そ、そう」

 いきなり不機嫌な声をだすせつなにドギマギしながらも木立を歩いていくとそろそろ寮が見えてきた。

「あ、そういえば梨奈とか夏樹が最近涼香のお菓子食べてないって言ってたわよ」

 もう少しで帰りつくという所になると、唐突にせつなが言ってきた。もしかしたら機嫌が悪いというのをごまかしたいのかもしれない。

「なぁに突然? まぁ確かに夏休みあけてから作ってなかったけど」

「久しぶりに作ってあげたら? どうせ休みなんて暇でしょ?」

「そんなこといってせつなが食べたいだけなんじゃないの?」

「べ、別に、私は」

「じゃあ、いらないんだ?」

「くれるっていうのならもらうわ」

(素直に食べたいって言えばいいのに)

 私は少し呆れたようにはいはいと答えると、不意に何かを思いついたような顔をした。

(そだ、みゅーこにも)

 そだね、うん。きっかけがないんなら自分で作ればいい。

 丁度美優子へのお礼もしてなかったんだし、御礼と謝罪をあわせてクッキーでも渡そう。

うん、それがいいや。そうと決まればさっそく明日にでも寮のみんなに作るのに合わせて美優子の分も作って渡しにいこ。学校や寮じゃ逃げられるかもしれないけど、家に行けば美優子だって逃げられないだろうし、それに人に見られることもない。

「せつな、ありがと」

 私は寮のドアを開けると同時にきっかけを与えるきっかけをくれたせつなにお礼を言うと、怪訝な顔をするせつなを置いて材料の確認へ向かっていった。

 

 

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