恋をした。

 生まれて初めての恋。

 それは苦難に満ちていて、話に出てくるようなきらきらとしたものなんて全然なかった。

 悩んで、苦しんで、傷ついて、打ちのめされて、けれど想いを捨てられなかった。

 最近、私は陽菜に変わったといわれることが多くなった。

 嫌いじゃなかった自分、変わろうとしていたのは嫌いな自分。嫌いだと思っていた自分。

 陽菜に変わったといわれるくらいだから私は変わったのだろう。

 その自分を今は嫌いとは思わない。

 恋をして、変わった自分を。

 せつな先輩とは不思議な距離を保ったまま。

 ただの先輩後輩の関係ではないとは言えても、友達とも言えなければ、まして恋人などとはとても言えない。

 寮の中では食事を一緒にしたり、お茶に誘われることで二人きりになることはあっても、どこかに出かけたりもしない。

 話す内容も色気なんてまったくなく、学校のことや寮のこと、勉強のことや共通の人間の話題などありきたりなことだ。

 今の関係を自分でもどう思っているかよくはわからない。ただ、せつな先輩が屋上に行かなくなったことははっきり嬉しいと思えていた。

 不思議な距離、不思議な関係。

 もしかしたら今のこの距離は変わることはないのかもしれない。想いを諦めるつもりはないし、縮める努力もしていくつもり。それでも変わらないかもしれない。

 それは悲しいことだ。

 しかし、それを後悔はしない。

 恋をした。

 恋をして変わった。

 私に訪れた結果。その自分を私は嫌いじゃない。……いや、誇りに思っている。

 無駄じゃない。変わったこと、これから変わっていくこと。恋が終わったとしても、私はそんな自分を認めていこう。

 そして、もし先輩との始まりがあるのなら

 

「渚? どうしたの。行くわよ」

 せつな先輩と歩けるのなら、手を繋ぎ歩いていけるのなら

「はい、せつな先輩」

 ずっとこの人の隣を歩いていこう。

 恋に変わっていく自分を楽しみながら、ずっとその手を離さずせつな先輩と一緒に。

 この気持ちが途切れるその時まで。

 そして、それが……訪れないことを願って、

 この人の隣を。

 ずっと。

あとがき/5

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