(……何やっているの?)

 本気でそう思う。

 蘭先輩のものになってから数週間。

 慣れてしまっている自分がいる。蘭先輩のものとして私。

 蘭先輩が言いふらしたりなんかしてないだろうけど、わかる人にはわかるみたいで、そういう風に見られてる。

 私と同じような立場の人は少なくても十人以上はいるみたいで、上級生の人たちからは……可愛がられたりもした。

 それを受け入れている自分がいることが、異常な気もしてでも、おかしく思わない自分もいて……変わってしまったんだなって思い知る。

 そう、何もかも変わってしまった。

 私も、私の生活も……好きな人との関係も。

 千秋さん。

 あの人に近づきたかったはずなのに、多少なりとも近かったはずの距離は今、果てしなく離れている。体を重ねることができたって、心がすれ違ったら何の意味もない。

 でも、千秋さんの態度って当たり前なんだろうな。だって千秋さんは蘭先輩のことが好きなんだから。

 その間に私が入ってきて、不満に思わないはずはない。

 このままの関係を続けていたって千秋さんとの距離が縮まることはない。それをわかっても、もう私は戻れなくなっていた。

 

 

「……えと」

 洋風を感じさせる小奇麗な店内。自然を感じさせるような耳触りのいいBGM。

 それと、

「さぁ、どうぞ」

 息巻きながら私の強い視線と向ける冬海ちゃんと、

「……………」

 テーブルいっぱいに広がるスイーツの山。

 ショートケーキやミルフィール、ミルクレープ、パンケーキ、ミニパフェ、チョコレートサンデー、善哉、あんみつ。

「どうぞって言われても………」

「お金のことなら気にしないでいいです。全部私のおごりですから」

「そういうわけには……」

「いいんです! 鈴さんに元気出してもらうために来たんだから気にしないで食べてください」

「えっと……」

「えっとじゃありません! とけちゃうのだってあるんだから早く食べてください」

「あはは……」

 こんなことになってる理由はこう。

 土曜日のお昼過ぎ。いきなり冬海ちゃんがデートしましょうって言って来て外に連れ出された。

 理由を聞けば、ここ最近部屋にいるときは今の関係のこと考えて言葉少なになっている私を心配しておすすめの喫茶店に連れてきたかったっていうことらしいけど、まさかこんなことになるとは想定外。

 最初は気分転換にいいかなって思ったけど、冬海ちゃんが注文をしているのを聞いて耳を疑い、目の前に広がる景色には圧倒されている。

「女の子が悩んでたり、落ち込んでる時には甘いものを食べて元気を出すものなんです。だから鈴さんはおとなしくスイーツを食べればいいんです」

「え、えぇ」

 ここで問答してても仕方ない。冬海ちゃんの言ってることがわからないわけじゃないし。落ち込んだときに思いっきり甘いものをっていうのはわからない感覚じゃないもの。

(……量はともかくね)

 それも頼んじゃったんだから仕方ない。お金は後で払うけど、今は冬海ちゃんの好意に甘えよう。

 そう思ってまずはパフェに手を伸ばしていった。

「それでいいんです」

 なんてよくわからない納得をする冬海ちゃんとスイーツの嵐に飛び込んでいく。

 冷たいパフェの甘さに舌鼓を打って、はちみつたっぷりのパンケーキを頬張って、ショートケーキの苺を酸っぱく感じて、善哉やあんみつの和スイーツの甘味に酔いしれる。

 食べ切れるのかなって正直思っていたけどそんなのは全然杞憂だったみたいで山のようにあったお皿やお椀、器が見る見るうちに減っていった。

 といっても、私よりも冬海ちゃんの方が勢いよく食べてるんだけど。

「…………」

 幸せそうな冬海ちゃん。一口食べるごとに、頬をほころばせ目を輝かせている。おいしかったのは事実だけど、なんだかこの冬海ちゃんを見ている方が元気になるかも。

「あ、やっと笑ってくれた」

「え?」

「久しぶりに鈴さんの笑顔見ましたよ」

「そ、そう?」

「そうです。最近部屋にいても、いっつもため息ばっかりで心配だったんですからね。鈴さんの笑顔好きなのに、全然笑ってくれないんだもん。私といるのつまんないのかなってちょっと落ち込んでたんですよ?」

「そ、そういうわけじゃ……」

「知ってます。けど、心配だったんです。落ち込んでる時だってあるでしょうけど、ちゃんと楽しいことは楽しいって思えなきゃだめですよ?」

 冬海ちゃんは何気なく言ったのかもしれない。

「…………うん、そうだね」

 でも、その一言はすこしだけ私の心を軽くしてくれた。それは確かにそうだ。

 日々の楽しいことがない訳じゃない。それに目を背けて、不安や心配だけに目を向けるのは正しいことじゃないって思う。

 それを本気で思うけど……心に何かしこりのようなものが残る。

「あ、冬海ちゃん」

 そのしこりの正体から目を背けて私は冬海ちゃんの頬に手を伸ばす。

「え? んっ……」

 頬をくすぐる様に撫でてついていた生クリームを取る。

「ほっぺ、ついてたよ」

「あ、ありがとうございます……っ」

「ん、おいし。……?」

 冬海ちゃんの頬についていたクリームを舐めると冬海ちゃんは妙に驚いたような、恥ずかしそうな顔をしていて、私はそれが何から来るのかわからず。

(……赤くなった冬海ちゃんも可愛いな)

 なんて彼女の心配を無碍にするようなことを思っていた。

 

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