絵梨子は確かにときなの恋人と言っていい。それは絵梨子はもちろんながら、ときなもそういう感情を中々表には出さなくとも、絵梨子にはこの世の誰よりも心を許す相手だった。

 ただ、絵梨子がときなに咎められつつも学校でも、プライベートでももっと一緒にいたいと願いそれを表に出すのとは反面、ときなは学校はもちろんのこと休みの日でも絵梨子の願いほどは一緒にいてくれなく、好きという気持ちをあまり表に出してくれないことを寂しく思っていた。

「あ、ときな」

 放課後、趣味で手伝っている演劇部の様子を見てきた絵梨子は体育館から校舎へ戻ってきたところで想い人と出会い嬉しそうに側に寄っていった。

「……朝比奈さんですよ。今の私は」

 笑顔を浮かべる絵梨子に対し、なにやらプリントを抱えているときなは少しあきれたように言った。

「あ、ごめんなさい」

 しかられた子供みたいにしゅんとしてしまう絵梨子。

「少し、話してもいい?」

「かまいませんよ。少しなら」

 わざわざ少しといわれてしまうのに絵梨子は寂しさを隠せない。

「それで、何でしょうか?」

「あ、今度の休みよかったらどこかいかない? 最近、外で会ってないし」

「テスト前ですよ教師が誘っていい時期ですか?」

「ほ、ほら、ときなって特別テスト勉強しないし。息抜きっていうか」

「言ってることが矛盾してますよ。まぁ、ダメです。先約があるので」

「あ、そ、そう……」

「……言っておきますけど、友達に勉強教えるだけですよ」

「べ、別にへんなこと考えてたわけじゃないわよ」

 デートの誘いを断られてたことで心に冷たい風を吹かせていた絵梨子はときなのフォローにあわててしまう。ただ、ときなの物言いはわずかながら、想いを受け取れたのは嬉しかった。

「あ、じゃあ、その次の休みは?」

 しかし、このところあまり相手にしてもらえていない絵梨子はあきらめ悪くときなを誘う。

「残念ですけど、そっちも先約がありますから。テスト明けで友達と遊びに行くんです」

「あ、そう……」

 今度は理由も一緒に説明してもらえたが断られたことの寂しさはいけない。

「お話はそれだけでしょうか。桜坂先生」

「あ、え、えぇ……」

「それじゃ、これで失礼します。急いでますので」

「あ、さ、さようなら、とき、……朝比奈さん」

 しかも、ときなは用件だけを聞き終えるとあっさり去っていってしまったので絵梨子は自分でも意外なほどにショックをうけてとぼとぼと自分も歩き出すのだった。

 

 

「はぁぁああ〜〜」

 今週も滞りなく一週間を終えた絵梨子は部屋で一人の食事を取りながら深いため息をついていた。

「ふぅ……」

 花の金曜日の夜だというのに絵梨子はどこかにのみに行くことも、一人の外食もせず、自分で凝った料理を作ることもしないで、軽くシャワーを浴びたあとすでにパジャマ姿でコンビニで買ったスパゲッティを箸でつつきながらぼそぼそと食べていた。

「ときなって……」

 本当に私のこと好きなの?

 と、口にはせずに心の中だけで思う。

 情けない上に考えるだけにも罪な気もして自己嫌悪に陥るには十分だったが、最近のときなの様子を思うとたまにそう考えてしまう。

 この一ヶ月ほどときなとは休日に会っていない。ときなが誘ってくれること自体まれだが、絵梨子が誘えば今まで断れたことなどほとんどなかった。しかし、この一ヶ月は誘ってもオーケーしてくれることはなかった。

 この日のようにテストや、先約があるなど理由はしっかりとしているが断れてしまっていることに変わりはない。

 もっとも、今日のはテスト前に生徒を誘うほうがどうかしているといわれればその通りではあるが。

「はぁ〜あ」

 スパゲティを食べ終えた絵梨子はテレビを見たり、音楽を聴いたりもしていたがどうもときなに最近冷たくされてしまっていることが気になってしまい何をしていても淡白に感じてしまう。

 ときなは元々あまりべたべたさせてくれるタイプではない。学校にいる間は分別を付けさせるし、春休みや、他の連休でもデートはしてくれても部屋で泊まることはほとんどなかった。

 それでも、条件付ではあるが学校でも二人きりのときはときなとは呼ばせてくれるし、たまのデートの時には別人のような姿も見せてくれた。

 だから、普段はただの仲のよい一教師と一生徒でも寂しくはあっても不満はなかった。

「はぁ〜」

 何をしていても気乗りしない絵梨子はベッドに入ってもやはりため息をつく。

 不満はなかった。なかった、はず。しかし、さすがに一ヶ月間一度もデートもしてくれなくては不満というよりも不安に思ってしまう。なにせデートどころか学校でもすれ違うだけが多くなってしまっているのだから。

(まぁ、テストが終わったら、きっと……ね)

 絵梨子はそう希望を抱いてときなが気になって中々寝付けない夜を過ごすのだった。

 

 

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