その後彼女とはいくつかの店を回ったけれど、それほど会話は弾まなかった。
まだ私たちはお互いをあまり知らないという以上に、彼女は本当にものごとに興味がないようで、本屋でどんな本や雑誌を読むのかということはもちろん、音楽も聞かないと言えば、映画や旅行の話も私が行きたいなら行くなんて風にはぐらかすだけ。
私に自分の好みの格好をさせはしたけれどファッションにも同様で、一体どんな人生を送ってきたのかと思ってしまうほどだった。
(とはいえ、聞いていいものなのか悩むけど)
私は時間つぶしと休憩に入った喫茶店で紅茶に口をつけながら一人そう思う。
今彼女は花を摘みに行っており、彼女との一日を振り返る私は手帳に彼女のことをメモしていく。
彼女は私に興味があるという言葉は嘘ではなく、私のことは確かに聞いてくるが自分のことはあまり話そうとしない。
恋人だというのなら、自分のことを伝えるということも大切なはずだけれど彼女はそれをせずに私のことばかりだ。
それは自分を含めて興味がないからということかもしれないけれど彼女に対する違和感をもつところでもある。
それに私にすぐ物を贈ろうとするところも気になった。服は最初ということとお返しをするということを決めたので受けれいたけれど、それ以外にも私が興味ありそうに何かを見ているとすぐにプレゼントすると言い出すのはおかしい。
気持ちが離れているのを物質的な贈り物で埋めようとしているということかもしれないけれど、それはまともな人間関係を気づくための手段には思えない。
今日一日彼女といて多少は知ることが出来たとは思うけれど、むしろ謎は深まったと言えるかもしれない。
「文葉、ただいま……っ」
「すみれさん、おかえりなさ……?」
席へと戻ってきた彼女に出迎えの言葉を発しようとしていた私だけれど、対面に座った彼女が目を見開いて私を見ていることに首を傾げた。
「どうかしましたか?」
「それ、どうしたの?」
「それ? あぁ癖みたいなもので、日記というわけじゃないけれどその日のことを簡単にメモするんですよ」
「そうじゃなくて、それ」
と彼女は私の顔を指さした。
「眼鏡、ですか?」
「そう、さっきまでしてなかったでしょ」
「えぇ、普段生活するのには困っていないんですけど物を書いたりとか細かい作業をするときにはかけるようにしているんです。それがどうかしました?」
何もおかしいところはないと思うけれど。また変なことでも言いだすのかなと目を細めて身構えていると
「すっごく似合っているわ」
まっすぐな褒め言葉が飛んできた。
「っ……それは……ありがとうございます」
「そんなに似合っているのになんで普段からしないのよ。もったいないわ」
「もったいないって……」
「もったいないわよ。今だって本当は今日一日文葉のその姿が見られてたはずなのにって思うと残念でならないわ」
「それは……」
なんと答えればいいのか。
「そうだ、これからはずっとそうしなさいよ。そっちのほうが文葉の魅力を引き出してくれるから」
「私の魅力を引き出しても何かあるわけではないと思いますが」
「少なくても私は嬉しいわ。好きな人の綺麗な姿は見たいと思うものでしょう」
「…………」
今日何度言われたかわからない綺麗という言葉。
この人から言われるのは嫌味にも思えなくはないけれど、自分が心の底から綺麗だと思っている相手に容姿を褒められるのは満更ではなく
「……とりあえず、今日はかけたままにしておきますよ」
と自分でも不思議思いながらそんなことを言ってしまうのだった。