「………ねぇ、彩音」
全部が終わってから十分くらいたって、けだるい疲労感とそれを上回る充実感に満たされていたあたしは中々眠る気になれないでいると美咲から名前を呼ばれた。
「ん……?」
ちょうどゆめの方を向いていたあたしは振り返ろうとするけれど、その前に背中に抱き着かれた。
「そのままでいい」
つい数十分前まで感じていた肉感と湿った肌のぬくもりを背中に感じながら美咲の情感のこもった声を聴く。
「なに?」
と返答するとぎゅっと抱かれる腕に力を込められた。
「あんたの気持ちはあれでいい。私とゆめの気持ちを伝えさせてもらった」
「うん……」
何を言いたいのかはまだわからない。けれどきっと大切なことを言おうとしていると察してあたしはお腹に回された美咲の手に自分の手を重ねた。
「ただね、一つだけ言わせて」
「なに?」
「ゆめと私、あんたを想う気持ちに差なんてない。けどね、先に好きになったのは私。それこそ物心ついたときからあんたが好きだったの。こういう風に好きだって気づいたのも小学生の時」
美咲の想いが耳に響く。私に話しかけているようであり、独り言を言っているようでもあるそんな調子を感じさせる声。
「先だからどうだっていうわけじゃないのはわかってる。こんなのただの自己満足だっていうこともね。でも、覚えておいて、私が小さいころからずっと彩音のことを愛していたって」
ぎゅ、っと再び腕に力を込めた。
(…………)
あたしはあたしなりに何かを返すべきかもしれない。でも、今美咲が望んでいるのはあたしのそういうことじゃなくて
「……うん。わかった」
美咲の気持ちをそのまま受け止めていた。
「……彩音、起きてる?」
空が白んじてきたころ、隣から可憐な声が聞こえてきた。
「ん、どうしたのゆめ?」
「……もう起きてた」
「んー、二人の寝顔でも眺めようかなって早起きしちゃったの」
実際は中々寝付けなかったんだけど。
「……いだずらするつもり?」
「しないって」
相変わらずあたしをどう思ってるんだか。
「……まぁ、いい」
「で、なんか用?」
「……ちょっと言いたいことがあるだけ」
と、ゆめの方を向くとゆめはあたしに体を寄せると胸に顔を寄せてあたしの顔を見ずに背中に腕を回してきた。
「なに?」
直の肌の暑さを感じながらあたしは軽くゆめの頭を抱えて引き寄せてあげる。
「……昨日、言ったことの補足」
「ん」
「……彩音と美咲は小さいころからずっと一緒だったから、過ごした時間じゃこれからだって絶対かなわない」
「うん……」
これからもかなわないって言い方、ゆめには悪いかもしれないけど嬉しく思った。だって、それはゆめも美咲とずっと一緒って思ってくれてるってことだから。
「……でも、彩音のこと好きな気持ちは私だって負けてない。美咲と同じくらい………」
ゆめはそこで一端言葉を区切ってから、あたしのことを強く抱きしめて「ううん」と続けた。
「……美咲が彩音のこと好きな気持ちよりも、彩音のこと好き」
あたしのことを見ないでそう言った。
「……ほんとはそんなのわかんないけど、彩音は私がそう思ってるって知っててくれればそれでいい」
胸に顔を寄せてゆめは自分に言っているかのような響きそう告げる。
「……うん、わかった」
そしてあたしはここでもそうゆめの気持ちを受け止めて、ゆめのことを抱きしめ返すのだった。
「……………」
朝方。
あの後ゆめはまた寝入っちゃって、美咲は幸せそうな寝顔を見せている。
あたしはそんな二人を見て、少し物思いにふけっていた。
告白はしてよかったって思ってる。
言わなくてもいいことだったかもしれないけれど、やっぱり一度は伝えておいた方がいいから。
まぁ、浮気したら殺すだの言われたのはちょっとあれだけど、それはそもそも絶対にしないし、二人の言う通り愛であることも間違いないからありがたく受け取っておこう。
それより思うのは、夜中の美咲と早朝のゆめの言葉と想い。
「うん……」
あたしは改めてその時のことを思うと納得するように頷く。
その数分の時間のためにも告白してよかった。あたしが自分の気持ちを伝えたからこそ二人もあたしに本当の気持ちを示してくれた。
あたしは二人の気持ちを理解できているかはわからない。でも、二人が伝えてくれたっていうことを大切にしなきゃいけないんだ。
美咲の気持ちも、ゆめの気持ちも受け止めてあたしは二人を愛していく。
明日も、明後日も……一年後も、十年後も、この先ずっとね。。
「大好きだよ、二人とも」
責任と想いを抱えながらあたしは二人の腕を抱いて、それぞれに口づけをするのだった。