「……う、に?」
ゆめは私の提案に反応は示したもののその度合いは鈍く体を起こす程度。
とても私の意図を理解しているとは思えない。
「……何言ってる?」
「そのまんまの意味だけど? キスしてみないかって言っただけ。それともゆめは私とキスするのは嫌?」
「……そんなことは言ってない」
「ならいいじゃない」
「……理由にならない」
(こっちはあえて遠まわしに言ってるんだけど)
まぁ察しろっていうのが無理なことくらいわかってるわよ。
なら、言い方を変えるわ。
「私たちがキスをしたこともないんじゃ【彩音が困る】って思わない?」
さて、これでどうかしら。
それなりにはわかりやすく言ったと思うけど。ゆめにはわからないかしらね。彩音はバカで鈍感だけど、ゆめも見た目通り子供なところが多いし。
「……………………………わかった」
ゆめはしばらく黙った後そう頷いた。
(ふーん。わかったんだ)
私はゆめの回答を意外な気持ちで受け取った。ゆめの沈黙の意味までわかるだなんて軽々しく言えないけど、ゆめが私と同じ結論に達したんだと勝手に推測する。
「なら、しましょうか」
「………うん」
ゆめはようやく体を起こすと私に向かって座りなおした。
私もそれを受けて持っていた本を閉じるとゆめの前に座りなおす。
「…………いつでも、いい」
少し恥らいながらそういうゆめを見て、彩音の気持ちが少しはわかるなと緊張する心をほぐそうとする。
節操なくゆめに手を出す彩音のことを変態だなんて色々複雑な思いを込めて言ってたけど、気持ちはわかるわ。
ゆめは本当に可愛い。
同い年どころか、数か月上のくせに小学生と言っても差し支えない華奢な体つき。体だけじゃなく幼さすら感じさせる童顔。
「……んっ」
ほら、軽く肩を抱くだけでも折れそうなほどで保護欲を掻き立てられるし。私と同じか、それ以上に緊張するゆめはその子供っぽい顔をピンク色に染めるところなんて、彩音じゃないけどいけない気持ちを芽生えさせてしまうほど魅力的だ。
(……私はどんな顔をしてるのかしら)
そう思ってゆめの瞳を覗き込もうとしたけど
「…………ん」
ゆめは恥ずかしそうにそらして、私は確かめる術を失う。
けど、そんな仕草も可愛くて。
「ゆめ」
「……美咲」
「好きよ」
私は決意を決めるとゆめの肩を抱いてゆっくりゆめとの距離を縮めて行こうとする。
「………うん」
ゆめもまた私に答えると、一瞬だけ私の目を見た後に瞳を閉じる。
(……………)
あぁ、ドキドキしてる。心臓がうるさい。体が重い。止まったら動けなくなっちゃいそう。こんな形でするなんてね。つぐつぐ特殊ね私は。いえ、私たちって言った方がいいのかしら。彩音はバカだし。あーあ、こんな少しの距離の中でよくこんなに色々考えられるわね。止まってるつもりはないけど、ほとんど動けてないのかしら。ゆめは何を考えてるかしら。私と同じことだけど全部が一緒じゃないんでしょうね。あ、そういえば、彩音っていつ帰ってくるって言ってたっけ? こんなところ見られたどうなるのかしら。……まぁ、それも別に悪くはないかもしれないわね。手間が省けるというか。……って何考えてるのかしら。これからゆめとキスをするっていうのに、ろくでもないわね私は。もっとも……ゆめも何考えてるのか知らないけど。
と考えている間に動きがとまっていたわけではなくて、確実にゆめとの距離を縮めていた私は
「ん……」
その距離をゼロにしていた。
(彩音とは、違うわね)
人の唇なんてそんなに変わらないんじゃないかって思ってたけど全然違う。彩音の方がふっくらとしていた。ゆめは張りがあって、すべすべとした感触。
「……ふ、ぅ……」
かすかに感じる息遣いが可愛らしい。
彩音とは違う、ゆめの感触に私の心はざわつきを覚えている。
「はふ………」
唇を離すとゆめは少し上気した顔で私を見つめてる。
私も同じような顔をしてるのかしら。
「ゆめ」
私は手を伸ばしてゆめの頬を軽く撫でた。
子供のようにもちもちとしたみずみずしい肌。触れていると、最初キスをしようと提案した時とはまた別の欲を感じる。
(まったく………)
その自分を呆れるというか、戸惑うというか………安心するというか。
キスをしてからいうと少しいやらしく感じる気もするけど、改めて私はちゃんとゆめが好きだということを認識する。
(もっとも……あくまで…………)
「もう、一回しない?」
私は心の中で続けない代わりにゆめの顔をこちらに向けさせた。
「………………」
(あんたはどう考えた?)
ゆめの瞳、今度はしっかり私を見つめてる。その中にいる私は少しだけ気持ちに区切りをつけた顔をしている。
「……うん」
私はゆめの気持ちまでわかるはずもなくただゆめが頷いたことに体を動かした。
「ちゅ」
今度はあっさりとその唇を奪う。
「っ、ん、……ふ……ん」
最初はさっきと同じように唇を合わせるだけ。それから角度を変えて何回かキスを繰り返す。
可愛いゆめ。私の好きなゆめ。彩音の好きなゆめ。彩音を好きなゆめ。
「っ!」
そのつもりはなかったけど、私は弾みでゆめの体をベッドに倒す。
「……み、さき………」
ゆめが少し不安そうに私を呼ぶ。
(……まぁ、ここまでしちゃったんなら)
この距離は今縮めておかないと、そのまま停滞しちゃいそうな気がするし。
「ゆめ」
私はゆめの名を呼ぶと、もう一度ゆめに口づけをしてゆめの体に自分の体を重ねた。
私の意図をわかるはずもないゆめの耳元に顔を寄せると
「………………にゃ!?」
自分自身も、ゆめも驚くことをささやいた。