しかし、今回の件で気づいたけど実はあたしはデートってほとんどしたことがないかもしれない。

 いや、今までゆめや美咲と出かけてたのもデートだとは思うよ? ただ二人とも恋人になる前から一緒にいるのが当たり前すぎて二人や三人で出かけててもあんまりデートっていう気がしない。

 だから改めてデートっていうとどういうことをしていいのかわからなかったりするんだよね。

(ま、まずい)

 そんなわけであたしは色々困ってた。

 ゆめにいいところを見せようと朝から色々頑張ってきたつもりだけどなんだかうまくいっていない。

 朝の手をつなぐっていうところからゆめはきょとんとしてたし、今思うと服を見てた時もあたしの趣味ばっかり推してたような気がするし。カフェでの一見はいわずもがなだし。

 さっきゲームセンターに寄ったときもゆめの好きそうなぬいぐるみをクレーンゲームでとってあげようとしたら全然取れなかった上に、ゆめがあっさり取っちゃったし。

 ゆめが珍しくいきたいところがあるっていうからついていったらネコカフェで、ネコが苦手なあたしはゆめの後ろに隠れてバッカだったし。

 正直言って今日のあたしの目的は全然果たせてないどころか、今のところ逆になっちゃってるような……

 最初の予定なら今ごろゆめが普段と違うあたしにドギマギして、でもそれが嬉しくて戸惑いがときめきに変わってる頃だったのに。

「……彩音、どうかした? 元気ない」

 むしろ今はゆめに心配されちゃってるよ。

(あぁでも今ゆめが顔覗きこんできたの可愛かったなぁ)

 って、んなこと考えてる場合じゃないって。

「う、ううん。大丈夫大丈夫。さ、次いこ次」

 まだあたしには一発逆転のチャンスがある。

 次なんて今日一番のおすすめなんだから。

 ここまではちょっと情けないところも見せちゃったけど、次で一気に挽回してみせる。

 そう意気込んであたしはゆめの手を取ってある建物に入っていく。

 暗い青色の壁、丸い銀色の柱、足音の響く床。

 そこらじゅうに目に着く星のポスターや星座、神話の解説。

 そう、ここはプラネタリウム。

 今日の最後の場所として初めから決めてた場所。デートの定番だし、美咲の引っ越しの時に流れ星に願いを叶えてもらって以来ちょっと星に興味持って調べたりもしたから知識もひけらかせるしね。

 とりあえず、最初は館内を適当に見回ってからロマンチックなプログラムを見てムードよくなったところでプレゼントだね。

 と張り切るあたしだけど

「……違う。おとめ座の一等星はスピカ。ギリシャ神話がもとのやつ」

「へ、へぇー、さすがゆめすごいねー」

(……そういえば、ゆめって頭いいだけじゃないんだよね)

 ゆめは無趣味だけど本はよく読む上記憶力が異様にいいから内容も忘れない。こうした知識もあって当たり前かも。

「……別に本で読んだだけ」

「いや、でも覚えてるってすごいよ。あたし読んだ本の内容とかすぐ忘れちゃうし」

「……彩音だから仕方ない」

「って、なんじゃそりゃ。そりゃ確かに忘れっぽいかもしれないけどさ。にしてもなんで忘れちゃうんだろうね。覚えてるものは覚えようとしなくても覚えてるのにさ」

「……人間は楽しいことは優先的に覚えるようになってる。だから彩音は勉強したこともすぐ忘れる」

「どういう意味だ。まぁ、ちょっと納得するところもあるけど。あ、そっか。かだからゆめや美咲と話したこととかは忘れないんだね」

 あたしにとって二人といることほど楽しいことはないもんね。

「……………………」

(?)

 腕を組んでたゆめがあたしに体を寄せる。

 それが何でかって気づけないあたしじゃないはずだけど、今は平然としながらも今回もゆめにかっこ悪いところ見せちゃってるなと落ち込んでたのもあってゆめの意図に気づけない。

「あ、そろそろ時間だ。シアターの方いこっか」

 それに気づいて頭でも撫でてあげればちょっとは挽回もできたかもしれないけどそれもできず、あたしは予定していた最後の場所へと向かって行く。

 シアターはよくある映画館みたいな席。違うのは天井を見ることが多いから特にどの席でも差がないことくらい。

 映画館なら敬遠されがちな端の席だって問題ないわけで、席も埋まってないのにあたしはわざわざその席を事前にとって置いた。

(うん。周りに人もいないし丁度いいね)

 席についたあたしはそれを確認するとゆめと並んで席に座る。

「楽しみだね」

「……うん。彩音は寝ないように気を付ける」

「……寝ないよ」

 確かにこういうのは得意じゃないけどさ。映画とかでも興味ないやつだとすぐ寝ちゃうし、いつだったか音楽を聞きに行った時も寝た記憶がある。あと、学校の芸術鑑賞会とやらで舞台を見た時も眠かった記憶がある。

 い、いやでも今日は寝ないよ。隣には大好きな大好きなゆめがいるわけだから寝ている場合じゃない。

 そんな会話をしている間に中が暗くなって、代わりに天井に淡い光が灯る。

 今日のプログラムは神話を題材にしたこのプラネタリウムのオリジナルのストーリーだとか。

 綺麗な女の人の声で語られる物語。それに合わせるように天を彩る星空のビジョン。

 それは十分に引き込まれるものだけど、あたしは時折上よりも横を見る。

 ゆめの横顔。

 小さな輪郭をした、子供のような無垢な顔。ほとんど表情は動いてないけど、楽しんでるのはわかる。

(そろそろかな)

 あたしは手すりに載せていたゆめの方に伸ばすと、同じく手すりにあるゆめの手に重ねた。

「…………」

 ゆめは一瞬こっちを見たみたいだけど、ここは気づかないふりでクールにやり過ごす。

 そのまままた物語に聞き入って、少しすると今度はゆめの手に指を絡めていく。するとゆめも同じく握り返してくれた。

(うんうん。ここまではオッケー)

 ロマンチックな感じになってきた。

 物語はそろそろクライマックスになるけど、あたしの頭にあるのはもうゆめのことだけ。

(これでもういいところがないなんて言わせないよね)

 このあとばっちり決めればゆめはもうメロメロになっちゃうはず。ま、今でもこれ以上ないほどメロメロだけどね。

 とか、のんきなことを考えてるとプログラムの終わりを迎え、徐々に周りが明るくなっていく。

「綺麗だったね」

 あたしは手を繋いだままゆめと向き合ってそう告げる。

「……うん」

 ゆめもあたしを見ながら頷いてくれた。

(よし、ここだ)

「けど……」

 あたしはゆめに真剣な目を向けながら、手をぎゅっと強く握った。

「あたしにとってはどんな星よりもゆめの方が輝いてるよ」

 そして、事前に準備してたセリフを告げる。

(うん、完璧)

 後は照れたゆめにプレゼントを……

「……やっぱり、今日の彩音は変」

「へ?」

(……あれ?)

 今、なんて言われた? 

 なんか予定と全然違うこと言われたような……?

 ゆめは照れるどころか、明らかに怪訝な顔をしてるよ? ここは照れるところだよ?

 あたしのロマンチックな言葉にゆめちゃんが顔を真っ赤に染めるところだよ?

「……もしかして、前に私が彩音にいいところがないって言ったの気にしてる?」

「えっ……、そ、そんなことは………」

 あたしの予定と違うどころか言い当てられちゃったよ。

「……だから、今日ずっと変だったの?」

「え……つ、つか、変だった?」

「……うん」

 うそん。確かにちょっとはかっこ悪いところも見せちゃったかもしれないけど、ゆめのこと楽しまさせられてると思ってたのに。

「……あんなの気にしなくていいのに」

「だ、だって好きな人にいいところがないなんて言われたら気にするよ」

「……別に彩音にいいところがないなんて思ってない」

「へ? で、でもこの前思いつかないっていったじゃん」

「……あれはクラスで言うことがないって言っただけ。私は彩音のいいところをいっぱい知ってるし、好きなところも数えきれないくらいある。それは別に他の子にわかってもらえなくても、私だけがわかってればいい」

 珍しく長いセリフを吐くゆめ。

「……だから彩音は私の側で笑ってればいい」

 しかも、なんという決め台詞。そんなゆめに

「……う、うん」

 ってうなづくことくらいしかできなくて

(あ、あれ? むしろあたしがドキっとしちゃったんだけど)

 ゆめのまっすぐな好意に赤面しちゃう。

 そして、結局何もかもがうまくいかないままプラネタリウムを後にしてしまうのだった。

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