(あ、結局プレゼント渡せてない)
それに気づいたのは帰りの電車の中。
薄暗くなってきた空を何気なく見てたらそれを思いだした。
(どうしようかな。帰り道でっていうのも唐突な感じだし。けど、今日渡すつもりだったんだし)
計画がうまくいってれば、自分でいうのもなんだけどいいプレゼントになったと思うんだけど……それこそいいところがないなんて絶対に言わせないくらいに。
まぁ、今更それを言っても始まらないか。
とりあえず最後にプレゼントだけでも渡して今日のことを少しでも挽回しよっと。
って、疲れてあたしに寄りかかりながら寝てるゆめの頭を撫でながらあたしはそう決意をした。
んで、ゆめの家まで送ってそのまま上がらせてもらう。
「……ご飯食べてくの?」
あたしがここまでついてくると思ってなかったゆめはベッドに腰掛けてあたしに問いかける。
「ん、それもいいんだけど、もうちょっとゆめといたかったから」
「……っ」
何気なくいった言葉にゆめがわずかな動揺を見せてる。
けど
(んー、でもやっぱりもっとムードのあるところで渡したかったかな)
大切なことだもんねこれ。いきなり言われても困っちゃうからもしれないし。迷惑っていうことはありえないだろうけど。
「……彩音?」
「ゆめ」
あたしはバックからあるものを取り出すとそれを握り締めてゆめのところへ歩いていく。
(あ、そだ。せめて)
と、ゆめがベッドに腰掛けているのを改めて見てあることを思いつく。
あたしはゆめの前に跪くとゆめの左手を取って
「……?」
薬指に持っていた指輪をはめた。
「……ふあ」
ゆめは少しの間その指輪を眺めてたかと思うと
「……ほえ!?」
ゆめにしては珍しい素っ頓狂な声を出した。
「あ、彩音……? なに、これ」
ん? 思ったよりも動揺してるな。
目を見開いて、口を半開きであたしと指輪を交互に見てる。
「何って婚約指輪」
「……っ」
「そんなに高いものじゃないし、ちゃんとしたのは大人になってから改めてするつもりだけど、とにかく今のあたしの気持ち」
あたしは跪いたまま指輪をはめたゆめの手を両手で包みこんだ。
さながらお姫様に誓いを立てる騎士のように。
「ゆめはあたしのこと全部まとめて大好きって言ってくれたけどあたしも一緒。あたしもゆめのいいところも駄目なところも全部知って、全部が大好き。あたしはさ、確かに駄目なところも多いし、多分気づかないうちにゆめのことを悲しませたり怒らせたりもしてるんだと思う。でもね、あたしはあたしなりにゆめのことを愛してる。これからもそうやってずーっと、一生愛していきたいって思ってる。これはその証」
事前に準備してたわけじゃないけど、すらすらと言葉が出てきた。
(あーあ。でも、やっぱりもっとかっこよくしたかったな)
自己満足なのかもしれないけどそれは結構本気で残念に思ってる。
「って、え! ゆ、ゆめ」
内心ちょっと残念に思いながら顔を上げたあたしの目に飛び込んできたのは
「……っ…く。ひく」
涙を流すゆめの姿だった。
「え!? え? ゆ、ゆめ、え? ど、どうしたの?」
あたしはまさかこんなことになるなんて考えてもなくてその意味を考えるより先にまぬけなことを聞いてしまう。
「……どうした、じゃ、ない。……ひぅ…、嬉しいからに決まってる。彩音が……プロポーズしてくれたんだから」
「っ……」
プロポーズ。
こういうこと言うとふざけてるっていわれるかもしれないけど、あたしは実はそこまでのつもりじゃなかった。さっき婚約指輪とは言ったけどそれはどちらかというと演出のためで、あくまでこれはプレゼントって思ってた。いいところがないって言われたのを見返してやろうっていう演出の一環だって。
もちろんいつかはするつもりだったけど、それはさっき言った通り大人になってからもっとちゃんとした指輪でちゃんとした場所でって思ってたから。
「……や、で、でも、そんな高いのじゃないし、正式なのはもっと別にするよ?」
って、もはやこういうの言う場面じゃないよね。うぅ、ゆめのこと怒らせちゃうかも。
「……高くないとか、ちゃんとするとか関係ない。彩音が私のこと、ずっと……愛してくれるって言ってくれたのがすごく嬉しい」
あたしの杞憂なんてもろともせずゆめは指輪をした手を胸の前で抱くようにする。
(……やっぱ、あたしってバカだなぁ)
値段とかムードとか、大人になってからとかそんなんじゃないなんてわかってるじゃん。大切なのはそんなことじゃない。
「ゆめ」
遅まきながらそれに気づけたあたしは真摯な瞳を向ける。
「……彩音」
ゆめもあたしの声に反応して、歓喜の涙に濡れた瞳で見つめ返してきた。
「ふぁ……」
それに抱擁で答える。
「ゆめ。こんなあたしだけど、精いっぱいゆめのこと大切にする。これからの人生をかけて愛していくよ」
小さな小さなゆめの体の暖かさを感じながら誓いを述べる。
「……うん……うん! 私もずっと……ずっと彩音のこと愛してる」
あたしの胸に顔を埋めて、あたしのことを痛いくらいに抱きしめて、ゆめは震えた声であたしのプロポーズを受け入れてくれる。
「うん。……ありがとうゆめ」
言ってあたしはゆめの体を引き離す。
見つめあうために。
こうしてみても、触れても、ほんとに華奢で小さい。可愛い私のゆめ。
この小さな恋人をずっと守っていきたい。幸せにしていきたい。これから先何があっても永遠に。
「愛してる」
あたしはその想いを一言に込めた。
「……うん!」
ゆめが満面の笑顔で頷く。
それは今まであたしが見てきたどんなゆめよりも可愛くて、可憐で、輝いている。
思いもよらないところからプロポーズをしちゃったけど、きっかけなんて関係ない。
あたしもゆめもこの想いは本物なんだから。
「ゆめ」
「彩音」
手を取る。指を絡めて、あたしたちは距離を縮めていく。
つないだ手は離さない。
この手をずっとつないであたしたちは前に進んでいこう。
その決意を今は
「んっ……」
キスにかえてあたしたちは永遠を誓い合った。