料理を教えるって約束してからは勉強を教えなくなったわけじゃないけど、学校でも勉強してきてるみたいで、家庭教師の日は気づけば勉強と料理やそのほかの家事との時間が大体半々くらいにまだなっていった。
あたしだってそんなにできるわけじゃないからそんなにすぐに上達っていうほど簡単にはいかなかったけれど、それでも包丁の使い方をちゃんと覚えてきたし、切って焼くだけとか煮込むだけの料理はいくつかできるようにもなってきた。
「せんせい、どう?」
夕食は一緒に取らないけれど、味見をしてあげることは多く一品作るたびになずなちゃんはあたしに味見を頼む。
これはこの家の夕食なんだし、なずなちゃんが気に入ればその味でいいとは思うけど、ほかの人からの言葉で安心が欲しいかな。
「うん、おいしいよ」
「……よかった」
にこやかに笑ってくれる。
その姿は思わず抱きしめちゃいたくなるほどに可愛い。
いや、もちろんしないけどね。
「あの……先生、今日もごはん食べていってくれないの?」
そして、ちょっと困るところ。
説明は事前にしたし、何度も同じことを話してる。
なのになずなちゃんは毎回のようにこれを聞いてきて、
「あ、うん。ごめんね。そういう約束だから」
断るのがつらい。なずなちゃんだってわかってるはずなのに
「………うん」
としゅんとしてしまうから。
「で、でもこれならお母さんもきっと喜んでくれるよ」
どういえばいいかわからず、とりあえずこんなことを言うけれどやっぱりなずなちゃんの表情は晴れないで罪悪感を増してしまう。
そんな日々の中で
「今日の宿題はこれで終わり?」
今日も家庭教師に来てたあたしはなずなちゃんの机で一通りの勉強を見てあげた後でそれを確認する。
「うん」
「りょーかい。それじゃ」
いつもなら台所に向かって料理の準備をするところで
「ただいま」
と聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「?」
二人して顔を見合わせる。
だって、今日はこの時間に帰ってこないはずでだからこそ今あたしがここにいるんだら。
考えても仕方なく二人で玄関までいくと、声が聞こえたのだから当たり前だろうけれど千尋さんの姿がある。
「あ、二人ともただいま」
「お母さん、お帰りなさい」
「お帰りなさい。えぇと」
「あぁ、今日はたまたま予定がなくなって帰れたのよ」
なるほど、と一応納得。仕事のことなんてよくわからないけど、確かにそういうのはあるかもしれない。
なら今日はこれでお役御免かなとか考えているあたしは、その日したことを伝えるっていう業務を果たそうとしたけれど、
「今日、ご飯は作るのはまだよね?」
「え? えぇ、ちょうどこれから……」
作るところでしたと伝えるところで「なら」と遮られた。
「せっかくだし買い物も一緒にいかない?」
と誘われてしまった。
「お買い物? お母さんと先生と一緒に?」
「そうそう。まだ一人でしろとは言わないけど、そういうのも覚えた方がいいんじゃない?
もしかして彩音にはそのうち頼むようになるかもしれないし」
「えぇと……」
それはつまりはお金に関することだし、あたしとしてはどう応えるべきかわからないところでではある。
そんなあたしをなずなさんは見透かすように眺めて、にやりと笑う。
「なずなだって彩音が一緒に行った方がいいわよね?」
「うん。先生と一緒がいい」
迷いはあったけれど、こんな風に言われた日には
「うん、一緒にいこっか」
そう答えるしかなかった。