スーパーにというので連れてこられたのはあたしたちも使ってるところだった。

 確かに立地的に便利な場所ではあるけれど、まさか美咲やゆめ以外とここで買い物するのは不思議な気分。

「いつもここなんですか?」

 左右に並び陳列棚を三人で歩きながら千尋さんへと問いかける。

「そうね。いつもというわけではないけど結構来ることは多いわ」

「あたしは大体ここなんです。家から近くで便利だし、よく三人で………」

「三人……? あぁ、そういえば一緒に住んでるって言ってたわね」

「え、えぇ」

 なぜか千尋さんが目を細めてこちらを見てくる。

 二人のことは実は詳しくは説明してない。ただ、一緒に住んでる人がいると言っているだけ。

 だけど……なんだか勘繰るような目が気になった。

「え……っと。な、なずなちゃんは今日何が食べたい?」

 居心地が悪かったというわけじゃないけれど、話題をそらすことにする。

 少し前を楽しそうに歩くなずなちゃんに声をかけると、こちらへと歩くペースを合わせてきた。

「先生は何が、好き?」

「へ?」

「……先生が好きなもの作りたい」

「へぇ、なずなどうしてまたそんなこと言うの?」

「先生が好きなものだったら、一緒にご飯食べてくれる?」

「あ、いや……」

 そういう問題じゃないんだけどなぁ。かといってそれをまた説明するのもつらいところではある。

「なるほどなるほど。彩音、今日くらいは一緒に食べていきなさい。時間はあまり変わらないでしょ」

「え、っと……そういう問題では……」

「いいじゃない。初めての日は食べてくれたんだし」

「……先生……」

 横を見れば千尋さんから、下を見ればなずなちゃんから懇願の視線を送られて心が揺らぐ。

「……わかりました」

「先生!」

 と嬉しそうにあたしを呼ぶなずなちゃん。

 これを見ると心苦しくはあるのだけど、次の言葉を言わないわけにもいかない。

「でも、今日はだめです。事前に言ってないのに、勝手にあたしが約束を破るわけにはいかないので」

「……………」

「まぁ、それは了解したわ。どっちが正しいかといえば彩音だろうし」

「……ありがとうございます」

 しゅんとするなずなちゃんには申し訳なくはあるけど、それでも譲れない。

 幸いに千尋さんはわかってくれたのはいいけど、少し空気が思い中店内を歩くことになる。

 結局あたしが好きなものというのも次ということになったし、今日は定番にそれもなずなちゃんがあまり難しくないようにと野菜炒めということで必要なものを買いそろえていく。

「なずなちゃんはどういうお菓子が好き?」

 そんな中であたしが悪いというわけではないけれど、微妙な空気には耐えられずなずなちゃんには積極的に話しかけていく。

「……あんまり考えたこと、ない」

「そ、そっか」

 不機嫌、なのかそれとも本音なのかわからない。

 ただ、あっさりと話が切られるのは心地いいものじゃないのは確か。

 ……どうすればいいんだ。あたしが悪いかって言ったら悪いわけじゃない気はするのに……

「にしても、あれね」

「はい?」

「こうやって三人で買い物してると家族みたいね。そう思わない? なずな」

「……家族?」

「そう。私と彩音が親でなずなが子供」

「ちょ、な、何を」

 それを片親の親が子供に言う話なのかあたしには判断つかないけど、突拍子はないし何を言っていいのやらとあたふたとしてしまう。

「……そうだったら、よかった」

「へ!?」

「だって、そうしたら先生といつも一緒」

 それは、そうかもしれないけれど。これまた微妙な話題で何を答えていいのか悩む。

 のに、

「なるほど。悪くない案ね。今からでもできるんじゃない?」

「え、あの………?」

「彩音今は大学一年よね。彩音が大学卒業するくらいまで養うことはできるし、結婚する? どう?」

「ひぁ!?」

 突然、千尋さんの手があたしの腰に回ってぐっと引き寄せられた。

 細い腕ではあるけれど腰を抱く力は必要以上に力が込められている気がした。

「彩音結構私の好みだし。顔もだけど胸が大きいところもいいわよね」

「ちょ、な、何言ってるんですか!」

 言葉だけどころか引き寄せた体に自分の体を押し付けてくる千尋さん。

 あまりなじみのない化粧品に匂いと美咲ともゆめとも違う大人の人の体に不覚にもドキドキとしてしまう。

「それになずなの面倒もだけど、家事をしてくれるのならありがたいし。私にとってメリットも多いし、考えてくれない?」

「あ、あの……?」

 真意がどこかはわからない。でも、少なくても子供の前でするようなことじゃないはず。

 それを楽しそうにする千尋さんにあたしは混乱する一方だったけれど。

「……っ」

「お、っと」

 なずなちゃんがあたしたちの間に割り込んできて、そのままあたしと千尋さんの片方ずつで手をつなぐ。

 それこそ母娘みたいな光景。

「……えへへ。ママとお母さんといるみたい」

「そうねぇ。やっぱり彩音と結婚したほうがいいかしら?」

「え、えーと……」

 二人が楽しそうにしてくれるのはよかったけどあたしとしてはこの二人に、特に千尋さんに対する想いを考えずにはいられない出来事だった。

 

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