なんだか気づけば家庭教師というバイトでなくなったバイトを終えて、帰宅したあたし。
時間は今日はちょっと早めで七時を回ったくらい。
今日は何だか本来のこと以外で疲れちゃって、恋人が作ってくれたおいしいごはんが待つ部屋に帰って……………
「あの……」
食卓についたあたしは呆然となる。
だってそれもそのはず。
テーブルの上には、オムライスとサラダとお刺身。それと、お味噌汁で夕食としては申し分のないメニュー。
ただし問題なのは、用意されているのが二人分ということ。
もちろんこの場合ないのはあたしの分だ。
「えーと、ゆめさん? これはどういうことでしょうか?」
今日の夕食の当番であるはずのゆめに理由を求めることにする。
するとゆめはあたしにゾクゾクするような冷たい視線を送ってきた。
「………自分で考えろ」
心当たりがないから聞いたっていうのに、一番怒ってる時の雰囲気を漂わせゆめは先に食事を始めてしまった。
困るあたしは今度は美咲へと視線を送り助けを求めるのだけど。
「さぁ、なんでもあんたが浮気したかららしいわよ?」
「は?」
意味の分からないことを言われてつい感情だけが表に出た。
浮気? あたしが?
そんなわけないし、だいたい
「いや、意味わかんないんだけど。大体今日はバイト行くって言ったじゃん。どこに浮気する暇なんてあんの」
「……………知らない女とデートしてたくせに」
「んん?」
デート? あたしは今日大学の帰りになずなちゃんのところによって後は
「あ………」
何となく心当たり。
「……小学生の家庭教師をするって言ってたのに、なんで知らない女と買い物してた。どいうバイトだ」
「なるほど、それは立派な浮気ね。嘘をついて他の女と一緒にいるなんて」
「いや、それってそこスーパーでしょ? あれは、ただ夕飯の買い物にきただけで……」
多分、ゆめに見られていたってことなんだろう。それは確かにあたしの不徳のなすところかもしれない。
バイトで家庭教師をするといったのに千尋さん(ゆめから見たら知らない人)と買い物をしてたら話が違うってことになってもおかしくはない。
「……しかも抱かれて満更でもなさそうにしてた」
……それもどうやら一番まずいタイミングを見られてたらしい。
「……へぇ、さすがにそれは聞き流せない情報ね」
美咲は一緒じゃなかったというのは発言から読み取れるけど、わかっていて乗ってそうだこいつは。
「……………」
にしても誤解すぎて話すことがないというかなんというか。
まともに話しても無駄なのはわかりきってる。
それにこういっちゃなんだけど二人ともあたしが本気で浮気をしてるなんて思ってはいない。
ただ、あたしが他の人と仲良くしてたっていう事実が真実よりも気にくわないみたい。
「えーと、とりあえずはちゃんと説明させてもらうと、ゆめが見たって人はなずなちゃん……あたしが家庭教師してる子のお母さんね。それで一緒に買い物してたのはたまたま今日は帰れたからでせっかくだからと買い物しに行ってたの。抱かれてたのはほんとだけど、あれは冗談みたいなもので」
「……言い訳をするな」
ばっさりと切ってくるねぇ。
「あぁ、もぅ! とにかく浮気じゃない。あの人のことは色々すごいと思ってるし、尊敬できるところもあるとは思ってるけど好きとかそういうんじゃない。あたしが好きなのは二人だよ。これで満足?」
面倒になったあたしは二人、特にゆめ相手には有効な告白をすることにする。
もうなんどこういうことを言ってるかわからないけど嘘はないし、特にゆめはこういうのに弱いからこれでどうにかなるかと思ったのだけど
「……彩音はいつもそうすれば私が折れると思っている」
さすがにワンパターンらしい。
とはいえ、あたしとしては浮気自体は事実無根だしこれ以上はできることがないのも本音。
「………仕方ないやつだ」
おや、許してくれないのかなと思ったけど……?
「……でも、今度は許さない」
「ありがと。大好きだよ、ゆめ。さて、それじゃ」
どうせあたしの分はどっかに隠してるとか何だろうから自分の分を取りに行こうとしたのだけど
「あ、れ……? もしかしてまじにあたしの分ないの?」
「……そう言っている」
なんてやつだ。普通ここはあたしを許した時に備えて用意しておくものでしょうが。
仕方なくカップ麺でも食べようかと思案するあたしをゆめはこっちにこいと呼ぶと。
「……私の分を食べさせてあげる」
と、スプーン一杯に持ったオムライスを差し出して
「……あーん、しろ」
と、させられてしまった。
そんな感じで一応夕飯にはありつけたのだけど、
「……こっち、も」
延々とあーんをさせられ続けてもしかしてこれが目的だったのかなと思うと同時に。
(今度夕飯食べる約束しちゃったの言いずらいな〜)
と今からその時を不安に思っちゃうのだった。