おっとどうせ、帰ったあたしが待ち受け変えるのを忘れてゆめとか美咲に見られるとかそんな間抜けなことがあるんだろうと思われたかもしれないけどそこまであたしだって間抜けじゃないんだ。

 ジャラ。

(間抜けじゃ……)

 ないはず、だったんだけど。

(これはちょっと、想定外だねぇ)

 パジャマ姿のあたしはベッドに仰向けに横たわっている。

 色々特殊な状況で。

 結局ばれちゃったわけなんだ。いや当日じゃないよ? あれから二週間たってて、まぁ気が緩んだっていっていいのかな。

 なずなちゃんには悪いけど、待ち受けを例の写真にしてるのはバイトの時だけ、それ以外の日には美咲とゆめのにはしてたんだけど、今日はバイトの日だったから忘れないように変えちゃってたんだ。

 で、朝それに気づかれてその時は大学があるからって先に逃げはしたんだけど。

 ジャラ。

 帰ってきたあたしは意外にもごはんの時に咎められることなく、普通にいつものを時間を過ごしたその後のこと。

 部屋にやってきたゆめに。

 ガチャガチャ。

 手錠を、されたんだ。

 どこで手に入れたのかは知らないけれど、ベッドセットの柱に括り付けられてまともに身動きすら取れない。

(まぁ、ゆめも本気なわけじゃないんだろうけどさ)

 さすがに色々まずい姿だよねこれって。

「あのさー、ゆめちゃん? これってどういうつもりなの?」

 手錠をされてまた、あたしのベッドに上がってこっちをにらみつけるようにするゆめにまだ余裕を持って声をかけるあたし。

「………彩音が浮気できないようにしている」

「してないって……」

「……この前の女の事と言い、今回の小さいのといい彩音は外に出すとすぐ浮気をする」

「してないんですがねぇ」

「……だから、もう浮気できないようにした」

 それが手錠で拘束するってわけ。

 あたしはこれ見よがしにガチャガチャと手錠を動かしてみる。おもちゃって程安っぽくはないけれど、本物みたいな重厚さはない。

 プレイ用って感じだけどこんなのどこで手に入れたんだか。

「……このまま監禁する。彩音は私だけ見てればいい」

(ゆめってこういうセリフ似合うな)

 目も笑ってないし一見本気にも思えちゃうしね。

「ねぇ、とにかく誤解なんだからこれ外してくれると嬉しいんだけど」

「……だめ」

「だめと言われても」

 いや、ゆめだと話は通じないのかな。多分美咲が主導だろうし。手錠されてまま結局なんもしてないのって美咲を待ってるのかもしれない。

 そんなことを考えながらゆめは怒った顔も相変わらず可愛いなぁと見てると、

「さて、どんな感じかしら」

 ようやく黒幕のご登場。

 お風呂に入ってた美咲はかっこつけてるのかバスローブなんて着たままベッドへと近づいてくる。

(かっこつけちゃって)

 でも、こういう格好でまだ髪が湿ったままなのも色っぽくていいかも。

「で、ゆめ。彩音は少しは反省してるの?」

「……全然してない」

「ふーん。まぁ、彩音はそういうやつよね」

 ゆめと反対側に座り、ギシっとベッドが歪む。

「ねー、美咲。さっさとこれ外してよー」

「ほんと反省してないのね。こいつ」

 今度は美咲からも冷たい視線。

「まぁ、浮気してないんだし」

 嫌疑に関してはまったくの事実無根なんだから弱みを見せたりしないよ。

「……はぁ」

 手錠をされたままでもツンとした顔で美咲を見上げると、美咲は怒ったりとか悲しんだりっていうよりも呆れたようにため息をついた。

「あんたってほんと鈍いっていうか」

「ん?」

「一応、言っておくけれど私は別に彩音が本気で浮気してるなんて思ってないわよ」

「は? じゃあ、これ外してよ」

 浮気っていう誤解をされてるからそれを解くまでは付き合ってあげようと思ってたってのに。

「……………あのさ、彩音。浮気以前の話で私は怒ってるってわからない?」

「?」

「浮気かどうかなんて関係なく、他の女と一緒に寝てるところを見せられて喜ぶ恋人がいるとでも思ってるの」

「あ……」

 そこでようやく何に怒っているのかということに気づく。

 ゆめが浮気浮気っていうから、そのことで手錠なんてされてるのかと思ってたけどなるほどね。

 確かにそういわれると立つ瀬ないというか言い返すのは難しい。

「で、でも、なずなちゃんは小学生だよ?」

「……小学生かどうかなんて関係ない。……彩音はロリコンだし」

「彩音がロリコンかは置いといて、相手が小学生かなんて関係ないのよ。私達以外の人間とそんなことをしたっていう事実が私達を不機嫌にさせるには十分すぎるの。っていうか自分で考えてみなさいよ。私たちが他の女と寝てる写真を見て愉快になれるのあんたは」

「…………」

 それは確かに愉快じゃない。でも、さすがに小学生に嫉妬したりは……

「私は小学生の頃から彩音を愛していたのよ? だから相手が誰かなんて関係ないわ。例えあんたが気にしなくても私が気にするのは覚えておきなさい」

「う……」

 あたしが気にしなくても美咲やゆめが気にすると言われちゃえば反論の余地はなくなっちゃうんだよね。

「……わかったよ。この件はあたしが迂闊だったしちゃんと気を付ける」

 あたしだって優先するのは考えるまでもなくこの二人なわけだしね。

 で、あたしとしてはこの謝罪で終わりと思ったわけなんだけど。

「……それにしても、彩音はどうしたら浮気しなくなる」

 ゆめちゃんとしては本気なのか冗談なのか続いているらしい。

 ただ、あたしとしては一応終わったつもりではあったから。

「ん、そうだな。ゆめちゃんがエッチな恰好で迫ってくれたりとか、あたしのお願いを何でも聞いてくれたりとかしてくれたら、他の子なんて見る気もなくなるかもねぇ」

 挑発もかねてこんなことを言ってみちゃう。

「……………わかった」

「へ?」

 いつもよりも少し長い沈黙のあとゆめは照れるというよりは少し怒ったように頷いて、パジャマに手を

「ゆめ」

 かけてめくりあげようとしたところで美咲が声をかける。

「そうやってなんだかんだゆめが甘やかすからこいつが調子に乗るんでしょ。大体、なんで今日手錠までしたのよ。この後のためでしょ」

(……この後?)

「……そうだった。彩音に騙されるところだった」

「だましてはないんだが……」

 そんなことよりもまずこの手錠を外して欲しいんだけど。

「ねぇ、美咲……っ!」

 多分鍵を持ってるのは美咲だと思うから声をかけようとした瞬間に、思わず目を見開く。

 美咲はバスローブを取り去っていて、その中を露わにしてた、から。

 しかも

「まぁ、私ならいくらでも彩音の望むことをしてあげるけれどね」

 美咲が身に着けているのは普通の下着じゃなくて、たまにしてくれるベビードール姿。

 ひらひらで薄く透ける太もものガーターベルトが眩しい、そういう時のための下着。

 その姿で美咲はベッドに膝をついてあたしに見せつけるように覆いかぶさってくる。

「それこそいくらでもいやらしい恰好をしてあげるし、なんならコスプレとかだっていいわよ。それに」

「んっ……」

 長く爪の整った指がおなかを撫でる。

「彩音がして欲しいことは何でもしてあげるわ」

「……っんく」

 あたしを魅力的に誘う言葉と妖艶な表情に思わず生唾を飲み込むも、

「……美咲。何をしてる、自分で甘やかすなっていった」

「あぁ、ゆめは彩音に厳しくしなさいよ。そればっかりじゃかわいそうだから私はその分彩音のことを甘やかしてあげるってこと」

「……それなら、私が甘やかすから美咲が厳しくしろ」

 ……なんか子育てとかしつけみたいな話になってきたな。

 そういう茶番は悪くはないんだけど。

「ねぇ、二人ともくだらないこと話してないでとにかくこれ外してよ」

 あたしとしてはまずは手錠をどうにかして欲しくてジャラジャラと音をたてさせて手錠の存在を主張する。

「………元凶のくせに」

「まったくね」

 あたしの声をスイッチにしたかのように二人が見下ろしてくる。

「……やっぱりお仕置きが必要」

「えぇ。そうね。まぁ、お仕置きにならないのかもしれないけれど」

「え? あの、ちょ……?」

 二人が体を押し付けるようにして左右から迫ってくる。

 ゆめのパジャマ越しにもわかる薄い体と、ほぼ裸の下着で生の感触をもたらす美咲に何とも言えない熱が湧き上がっては来るんだけど。

「今夜は覚悟しなさい」

「……いっぱい愛してやる」

 左右から耳元で囁かれる言葉にゾクゾクと体を震わせながら、どこまでが演技でどこまでが打ち合わせ通りだったのかなと思いつつ、今夜のことを思い体を熱くするのだった。

 

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