夜の一番深い時間になって。

 ようやく解放されたあたし(手錠も外してもらった)は左右で身を寄せる二人の生肌の熱を感じて幸せに浸っていた。

「そういえばなんだけどさー」

「何よ」

「……ん?」

 ふぅ。耳に好きな人の声が響くのは素敵だね。

「浮気浮気っていうけどさー、二人はどの辺から浮気だって思うわけ?」

「何? ボーダーラインをしってそこまでならしてもいいって考えてるわけ?」

「……最低」

「違うっての。ただ気になっただけだって」

「まぁ、応えてあげてもいいけどそういうのはまず自分からなんじゃないの?」

 人に名前を聞く時はまず自分からってやつか。

「そうだなぁ」

 二人が浮気するなんて思ってもいないからあんまり深くそういうの考えたこともないけれど

「うーん。理由があっても二人であったりされるのはちょっと面白くないかな」

 我ながら厳しいとは思うけどね。浮気するなんて思ってもいないし、二人を信じてるけど。でも、ちょっとね。

「で、ゆめは?」

「……他の人間と話した瞬間」

「……………」

 冗談なのかと言いたいところだけど、ゆめの場合は冗談じゃなさそうだしこれ以上突っ込むのはやめとこ。

「えーと、美咲は?」

「そうねぇ」

 顔を美咲へと傾けると美咲は何やら考えるような顔をしてる。

 何か企んでいるのかもしれないが……でも美咲は意外にちゃんとしてるはずだし突拍子のないようなことは言わな………

「私以外のことを見たり考えた瞬間かしらね?」

「……………はい?」

 なんかとんでもない条件だったような?

「えーと……」

 反応に困っていると美咲はにやりと勝気に挑発的に笑う。

「言ったでしょ。あんたは私のことだけを見ておけばいいんだって。私のことだけを考えれてればいいんだって」

「…………」

 判断に難しい口調。目は笑っていなくて瞳には言いしえない深さを感じさせる妖しい光。

「あと、私は嫉妬深いから浮気しないで欲しいわね」

「………………」

 一瞬だけどゾクって背筋が震えるような感覚。正直内容としては冗談だって思うんだけど……

「……善処します」

 そう答えざるを得ないあたしだった。

 

 ◆

 

「くぁ……あ」

 ね、眠い。

 今日もバイト先であくびをしてしまっている。

(やめろって言ってんのに)

 最近バイトの前日にはいつも二人が好き勝手するせいで眠くなっちゃう。

 だからといって大学でも、バイト先でも眠るわけにはいかないのだけれど。

「先生、眠いの?」

 机に座りながら純粋な目で見られるのは、ちょっとくるものがあるよね。

(……っは!)

 いや、まてこれはまずい展開だ。

 ここでまたお昼寝してもいいとか言われたらループに入ってしまう。

「眠かったらお昼寝していいよ」

「だ、大丈夫だよ。気にしないで。ほ、ほら、やっぱりなずなちゃんのベッド使わせてもらうの悪いしね」

「………なら、膝枕する?」

「へ?」

 椅子を引いて太ももをぽんぽんとたたくなずなちゃん。

「……お母さんは、こうすると喜んでくれるの」

「へ、へぇ〜」

「……おっぱいがおっきくなったらおっぱいでお母さんのこと元気づけてあげるけど、それまでは膝枕でお母さんのこと元気にしてあげるんだよ」

「……………そ、そう、なんだ」

 あの人は娘に何を求めてるんだろう……。

 いや、おっぱいはともかく膝枕っていうのは気持ちわからないでもないけどさ。

 だって……

 じぃっとその部分に視線を送ってしまう。

 太ももっていっても小学生らしく細く、肉付きがいいとはいえない腿。

 けど、その分肌にツヤはあり瑞々しいのは触らなくてもわかるし、

 ……邪な気持ちがゼロ、というわけにはいかないけれど。

「……本当はお母さんに他の人にはさせちゃだめって言われてるけど、先生ならいーよ」

 殺し文句まで。

 正直言えば眠いよ。今すぐにでもベッドでもお膝でも眠っちゃいたいところだよ。

 でもあたまに浮かぶのは二人の恋人の姿。

 あたしとしてはこれが浮気に入るとは思わないけどこれをしたらばれるとかばれないじゃなくて悲しませるのはわかってる。

「なずなちゃん」

 だからあたしはできるだけ優しくその名前を呼んで頭に手を乗せるとさらさらの髪を撫で撫でる。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ」

 指の間に通る細やかな髪の感触を楽しく思いながらあたしは言った。

「…眠くないの?」

「ん、眠いけど。やっぱりちゃんとしなきゃだめだからね。あたしはなずなちゃんのお世話をするためにいるんだから、甘えてられないよ」

「…………うん。残念だけどわかった」

 しゅんとされると弱いと思ったけど物分かりのよさはゆめや美咲以上だね。

「……真面目な先生もかっこいいね」

 見上げられながら熱のこもった瞳をされてちょっと恥ずかしいけれど満更でもない気持ちになり、今日はループを断ち切ることが出来たのだった。

 

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