見慣れた天井を私は見つめます。

 それは見慣れてはいますけど、この時間ではほとんど見ないものです。

「ふぅ……退屈、ですね」

 窓から差し込む強い日差しを感じながら私は、私の遊び部屋のベッドに寝そべります。

「……そろそろ、お昼、ですか」

 時計は見てませんけど、なんとなくそう感じた私はぽつりと寂しそうにつぶやきます。

「………………はるかさん、どうしてるでしょうね」

 当たり前ですけど、はるかさんのことを気にしてしまう私は昨日のことを思い出してしまいます。

「……泣かせちゃいました、か」

 真っ先に思い浮ぶのははるかさんの泣き顔です。この部屋を出るまでしか見てられませんでしたけど、送っていった優衣さんのお話では帰りつくまでずっと涙は止まらなかったそうです。

(……ま、当然ですよ、ね)

 好きな人に遊びだったなんていわれれば。……幸いというかなんというか私のこれまでの態度はそう取られてもおかしくないものでしたし、はるかさんには本気で取ってもらえたと思います。

 夢は醒める。

 いつまでも楽しい夢を見てはいられない。あの保健室で見ていた夢はもう終わりです。

 ……別に、無理にあそこにいる理由はなかったんです。

 だから、こうなったことを悲しむ資格も、後悔する資格も私にはありません。

 彩葉さんを責めることももちろんできません。

 ただ、私は思うのは、

(……弱い、ですね。私は)

 この一事です。

 弱すぎますよ。自分のことしか考えられない。

 自分のためにはるかさんですら切り捨ててしまう。

 これじゃまた繰り返してるだけです。

 私の体が今のようになったときと同じ。怖くて、恐ろしくて、差し出された手をみないふりして、突き放す。

 相手の気持ちをわかっているくせに、それを天秤にかけたら自分のほうに傾いてしまう。

「……弱すぎですよ」

 私はポツリと呟いて、ごろんと寝返りを打ちます。

「っ……」

 そして、その衝撃で頬を伝う涙の熱さを他人事のように感じ

「……はるかさん……」

 愛しい名前を呟くのでした。

 

 

 麻理子が学校に来なくなった日。それを知った彩葉の胸に訪れたのは複雑な感情だった。

 悲しくもあり、悔しくもあり、情けなくもあり、寂しくもあり、とにかく色々なものが駆け巡ったが後悔はそれほど強くは感じなかった。

 それから数日、彩葉は人気のない保健室にたたずんでいた。

「……麻理子」

 彩葉は麻理子のいないベッドを見つめては、ため息のようにその相手の名を呼ぶ。

 窓からは強い風。

 麻理子の世界を作っていたカーテンがバサバサと音を立ててゆれる。

「……ふぅ」

 麻理子のいないベッドに手をついた彩葉は、自虐的なため息をつく。

「……ったく、私にも連絡してくれないとはね」

 そこにいない麻理子に語りかけるかのように呟き、ベッドへと腰を下ろす。

 何気なく髪をかきあげ、今度は窓の外に目を向ける。それは丁度麻理子の家の方角だ。

「……………」

 おそらく、というよりもほぼ間違いなくはるかを挑発したことが影響しているのだと思う。二人に何があったのかをわかるすべはないが、何かなければ今さらこなくなる理由はないはずだ。

 こなくなるのなら、去年からそうなってるはず。

 引き止めた彩葉自身がそう確信している。

 はるかに、麻理子に対して余計なことをしたとは思っていない。というよりも、傍観者でなかったということが彩葉にとっては大切なことだった。

 ……はるかが、麻理子と別れようとも、だ。もちろん、はるかが麻理子の力になってくれるのならそれに越したことはないが、それよりも彩葉にとっては前者のほうが重要だった。

 親友としては。

(……結果よりも、過程のほうが重要ってことかしら?)

 麻理子がどうなろうと、それに自分が関与できたという自己満足を得ていたことを自覚した彩葉は自分に呆れかえる。

「……弱いわね、私」

 自分の弱さを見つめる彩葉は、また視線を室内へ戻すとそこにいない麻理子を見つめる。

「麻理子は、本当にあれでよかった?」

 それははるかとのことではなく、もっと昔の、麻理子がまだはるかを知らなかった頃の話。

 今さら考えても取り返しはつかないとわかってはいてもふと頭をよぎってしまう。

(というより、それは私、よね)

 その時の選択がよかったのかと思っているのは自分で、それに未練があるからこそ、はるかをその穴埋めに利用しようとしていた。

(そういえば……)

 ふと、はるかのことを考えた彩葉は、思考の方向性を変える。

 麻理子と話したのなら誤解は解けたと思うが、それでもはるかに対して多少の罪悪感を感じてしまう。

(麻理子と何があったか聞きたいところだけど……)

 おそらく嫌われてしまっているだろうから、麻理子のことをはるかに聞くわけにもいかず、それをしたいのであれば麻理子に直接聞くしかない。

 それはいつかは絶対にすることと決まっているが臆病な彩葉は今すぐにそれができることなく、憂鬱な気分になりながらそろそろ帰ろうかと考えたときだった。

「先輩!?

 いつの間にか保健室に入っていたはるかが勢いよくカーテンを開けて入ってきたのは。

 

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