クリスマス
もともとはキリストの誕生日でそれを祝うものだったみたいだけど、今では教会にいく人なんて一部の信者だけでその中でも真面目に祝ってる人なんてもうほとんどいないのではと思う。
この日本でも昔は厳粛に聖誕祭を祝うものだったらしいが、今ではバレンタイン同様に企業に踊らされて、ただのお祭りになっている気がする。
そういえば、クリスマスをお祭りに仕立て上げたのはコカ・コーラの策謀って何かの本で読んだ気がするけどあれは本当なんだろうか。
ともあれ、十一月の半ばくらいから街は、女の子がおしゃれをするみたいに街灯や街路樹などが着飾りを始めて、見ているだけでもわくわくしてくるような気分にさせてくれる。
……もっとも、あんなことをやっておいて温暖化がどうとか騒ぐのだから勝手なものだ。
そして、クリスマスといえばあとは、サンタクロースにプレゼント。今年も当然、親のサンタからはプレゼントの約束は取り付けてあるけど、問題なのはもう一人のサンタ、結花と、結花にとってのサンタである私だ。
そう、特に私なのだ。
「はぁ………」
私は部屋を歩き回りながら、時おりテーブルの上におかれているものを見ながらため息をつく。
そこにはカラフルな毛糸玉がいくつかおかれ、棒針につながっているものもある。クリスマスのプレゼント用にと、手編みの手袋に挑戦した結果だ。最初は気合を入れてセーターでも挑戦したかったが、本を読んでる時点であきらめてマフラーにしようと頑張っては見たがやはり初めてには難易度が高すぎて、最終的に手袋にしようとして……その残骸がテーブルの上におかれている。
……だって、網目ミスしてたらそこまでやり直さないといけないとか酷すぎるわよ。
正直にいって、挫折した手袋でこういうのもなんだけど、手袋程度ならともかく、マフラー、セーターレベルをやる人間とか尊敬を超えて畏怖するわ。
テーブルの上にあるなんてただの布の塊にしかみえないし。
「最初から素直に買っておけばよかった……はぁ」
私はまたため息をつくと今度は机の上に目をやる。
机にはクリスマスらしい赤いラッピングに包まれた包み。中身は蝶のブローチで、私も色違いでお揃いのものを買っておいた。
おそらく結花はへたで未完成だろうと私の手作りのほうがいいのだろうけど、多分結花は手作りで凝ったものを用意してくると思うのでこっちがあまりに惨めになってしまう。
手作りはそれ自体想いがこもったものになるだろうけど、別に手作りじゃないと想いを込められないわけじゃないのだから問題ないわよね? ただ、自分を納得させようとしても【結花のために頑張れなかった自分】がいたことが悲しくなってしまう。
去年も結花とは一緒にすごしたけど去年は結花からはもらっても私からはあげていない。バレンタインのときもそうだったけど、あまりイベントに流されるのは好きじゃないから他の人がするのはともかく私は積極的にそういうものに関わろうとはしなかった。
だから、結花にもプレゼントをあげていない。去年は……丁度結花への想いに悩んでいた時期だったから躊躇もしたが、結果今の関係となっているのには満足している。
去年と違い今は結花とは想いを確かめ合うような関係になってる。ただ、想いを通じ合えたら通じ合えたらでその分の悩みが増えるのだからいつになっても気苦労は耐えない。もっとも質が違う嬉しい悩みではあるけど。
「……もうこんな時間か、眠いはずよね」
時計に目をやると十二時を回るところだ。学校の友達とかは深夜番組やラジオの話をするけどやはり私はこの時間になると眠くてたまらなくなる。
もう一度、テーブルと机を一瞥すると少し考え込む。
手作りのじゃないともしかしたらまた【想い】が足りないとかごねて恥ずかしいこととかさせられるかもしれないけどそれは慣れたし、結花だって私を困らせるためにしてるのじゃない。
……いや、困る顔が可愛いとか言ってくれるのからすると困らせるのも目的の一つなのかもしれないけど。
でも、機能しないものを渡しても仕方ないわよね。お互い内緒にしてるからおそらく手作りのものをくれる結花とかぶらないのは、既製品の利点ではあるし。かぶったらそれはそれでお揃いみたいで嬉しいけど。
「でも、これだっておそろいよね」
机の上のほうの包みを手にとって呟く。
なんだかんだで渡すのはこっちしかありえない。なにせ、手編みのあれはまともな形にすらなっていないのだから。
ようやく結論付けると眠いまぶたをこすりながらベッドに入っていった。
「……んぅ」
やっぱり、悩みはあっても布団に包まれれば安心するのよね。それになんといっても明日はやはり楽しみだ。
明日は毎年恒例のことで結花と二人きりにはなれないけど、プレゼントを渡すのはできる。
「おやすみ、結花」
何故か好きな人の名前を呼びたくなって結花の名前を呟くと目を閉じて、意識を夢へと落としていく。
明日を楽しみに眠りにつけることはとても幸せだった。