「ふふふ」
結花は自分のベッドの上で髪をとかしながら楽しそうな笑いを浮かべた。
あけてある窓からは冷たい風が来て、薄い水色のカーテンがはたはたとゆれる。冷たいことは冷たいが結花は風呂上りにこうして涼むのが好きだった。
特に冬は突き刺すような寒さが身体の芯まで冷やすような感覚には妙な快感を覚えている。
「楽しみだなっと」
しっとりとした髪を整えながら、今度はテーブルの上に視線を移し呟く。
ベッドからすぐ側の四角いテーブルの上には結花が編んだマフラーがおかれている。当然、今度のクリスマスで美貴にプレゼントするために編んだものだ。
起用で普段からお菓子や小物、簡単な服などを自ら手がけている結花にとってはそれほど苦にもなることではなかったが今回は大変だったと振り返る。
特別な日に美貴に渡すものなんだから自分のための小物や服、例え失敗してもある程度許されるお菓子なんかとは違って丹念に想いをいーっぱいこめて作ったのはもちろんだけど、結局私の楽しみが入っちゃってるよね。
大好きな人のために頑張るというのは頑張る理由としてはものすごく適当だが、なんだかんだ言って自分のためでもあるのだからなおさらやる気になれた。
「どんな顔するかな、美貴は?」
多分、最初は驚くよね。で、嬉しそうにありがとうとは言ってくれるだろうけど、どうしてこんな風にしたのかを聞いてくる。
その理由を教えてあげると、きっと私をちょっと呆れたような目で見てきてバカにしたようなことも言ってくる。
だけど、本気でそんな風に思ってるわけじゃなくて心の中ではにかんでるつもりなんだろうけど隠し切れないで微妙な笑いが外に出てくる。
結花はそんな美貴を見るのが好きだった。他の誰が気づかない、気づけない自分だけの美貴。美貴にとって大切な存在だというのはわかりきっていても何度でもそれを伝えたいし態度を示してくれる姿は心に満たしてくれる。
「さて、と。忘れない内に包んでおかなきゃ」
髪の手入れをすませた結花は立ち上がってテーブルのマフラーを青の包装紙で包みだす。「む……結構むずかし」
器用とはいえ普段は自分で包装紙を包むなんてしないし、なによりもマフラーに自分の意図も一緒に織り込んでしまっているためそれが災いして包み込む難度を上げてしまっている。
どうにか完成はさせたが明らかに素人の出来になってしまった。しかし、どうせその場であけてもらうのだからと不恰好になってしまった包みを自分の中で納得させる。
「……うーん、そろそろ寝ようかな」
お気に入りの目覚まし時計で時間を確認すると結花は窓を閉めて、ベッドへと入っていく。
ふくふくでぽかぽかなベッドの中、さっきまで窓を開けていたせいで冷えた体が温まっていく。
(これで美貴が一緒にいてくれればいうことなしなんだけどねぇ)
まぁ、それは明日会うんだしいっか。
結花はベッドで目を瞑るがなかなか眠気はやってこない。そもそもまだ十二時を多少回ったところで普段なら寝る時間でもない。しかし、明日を楽しみにしながら夜更かしをするよりも、おきてからその日美貴に会うことを待ち望みながら待っているほうがわくわく感が高まるので眠いからというよりも早く寝て朝になってしまいたい。
毎年のことで二人きりになれないのは残念なことだがそれでも目的は果たせるはず。
「ふふふ、楽しみにしててよね美貴」
結花は何気なく手を天井に伸ばして口の端を吊り上げる。いたずらっぽい結花の魅力をよく出している美貴への特有の笑い方だ。本人を目の前にしてなくても美貴のことを考えてると自然に出てしまう。
二人きりにはなれなくても特別な日に、特別な人と、特別なことをする。もしかしたら特別なこととはすでにいえないのかもしれないけど、ある意味一緒にいることがすべて特別と思える。
それほどまでに美貴と想いを通わせるのは結花にとって嬉しいなんていう言葉では表せないほどの歓喜に満ちていた。
「おやすみ、美貴」
気のせいか美貴にそういわれた気がしたので結花もまるですぐ横に美貴がいるかのように囁く。
しかし、明日のことを思えば思うほどそのことを意識してしまい結局なかなか眠りには入れなかった。