あの後三人で食堂で時間をつぶして、次の授業は一緒に受けて二人で夕飯の買い物をして帰っていった。
その間もせつなさんから氷川さんと何を話していたか気になってしまう。
我慢と言ったら普通に考えてポジティブな意味じゃない。
せつなさんは何か私に我慢、することがあったの?
だとしたら何を?
あの口ぶりからするに少なくても去年から我慢してたみたいな言い方だった。
「渚?」
「っ、ひゃい!」
「何よ、変な声だして。台所でぼーっとされると危ないんだけど」
「ご、ごめんなさい」
二人で台所に立ち夕飯を作る。刃物も使っているし、ぼーっとなんてしてたら危ないのは本当。
私はとりあえずは集中しなきゃと調理に気をまわすけれど……気になることを考えすぎてしまうのは私の悪い癖で
「っ……」
「渚!」
指を、切ってしまった。
「大丈夫?」
血相を変えてせつなさんが私を手を、取ってくれる。
「だ、大丈夫です。ちょっと切っただけですから」
「……そ、う。だから言ったじゃない。ぼーっとするなって。今日は私がするから渚は消毒して休んでなさい」
まるで親のように怒られてしまったけれど、言い返せるはずもなく言うとおりにしてすごすごと台所から去る。
「……はぁ」
最近落ち込むことが多いわ。今はやすませてもらうけれどせめて準備くらいはちゃんと手伝えなきゃね。
そう意気込む私ではあるけれど
「きゃ!?」
せつなさんが料理を終えて並べるのを手伝おうとした私は、つい不注意からお皿を堕としてしまった。
盛り付け前だから、料理がだめになるということはなかったけれど
「ご、ごめんなさい」
「…………」
せつなさんは無言で片づけをはじめ、怒っているのかと不安に胸を締め付けられる。
「あの……」
「大丈夫よ。それよりここはやっておくから他のことをお願い」
「は、はい」
私としては自分でやりますともいえる状況ではなく、言われたとおりに残りの用意を終えた。
そうして、片付けを終えたせつなさんと二人で並んで食事をとる。
「それで、今日はおかしかったけれど何かあったの?」
あんな醜態を見せてしまえば当然でしょうね。とはいえ簡単に言えないからこそ醜態をさらしたわけで私は口を閉ざそうとするものの……
「……あの、せつなさんって。隠してること、ありますか……?」
それを聞いてしまった。
「……質問したのは私だけれど、どうして?」
「氷川、さんが……せつなさんは私に我慢、してるって言っていたから」
「……っ」
ピクっと眉根を動かし、食事をする手を止める。
「美麻……やっぱり余計なこと言ってたのね」
少し厳しい顔になるせつなさん。
私はそれに「余計なこと」を考えずにはいられない。
「あの……それって、も、もしか、して……その……」
まったく心当たりがないわけじゃない。いえ、この数日の自分の行動がその考えを増長させているのかもしれないけれど。
「渚」
せつなさんは必要以上に考えだす私を穏やかな声で呼んだ。
「……嘘をついても仕方ないわね。まったくないわけじゃないわ。それは誰にだって同じでしょ」
「教えてください、私何でもします、から」
「………そうね。そうやって自分が悪いって思ったりするところは改善して欲しいわね」
「せつなさん……」
それがこの場を収めるために言っているとわかる私は、食い下がるが
「渚だって、全部を私に話せるわけじゃないでしょう?」
「っ……」
その通り。せつなさんの言っていることは正しい。相手が恋人だからって話せないことはあるのは自然なこと。
ただ今はそれ以上に私がせつなさんに後ろめたいことをしているのを指摘されたよな気がして……
つい、目をそらしてしまう。
「それが自然なことなのよ。ほら、ごはん食べちゃいましょう」
「……………」
話を終わらせたくなんかないのに……今はそれ以上続ける言葉も勇気も私は持っていなくて………
「……はい」
そう頷いてしまっていた。