負い目を感じたり、すぐに自分に非があると思うのは確かに私の悪いところなのだろう。
そこは否定しない。
そして私はやはりせつなさんに甘えているのだということも。
でも、私は……せつなさんの恋人、なの。
恋人というのは一番近い存在。誰よりも心に寄り添い、支え合う人。
……そんなのは私が子供だからこその理想論かもしれないけれど、そうだとしても私は本当にそうあるべきだと思っている。
一方的に甘えていていいはずがない。
そんなことは今までだって何度も考えてきたこと。
だから、これまでなら私は逃げていたかもしれない。正論やせつなさんのやさしさを盾に隠れていたかもしれない。
これまでは。
「…………」
床についてから私は、あることを考える。
暗い部屋の中、体だけをせつなさんへと向けながら。
(……我慢)
頭の中にはいくつかの考えが漂い、それぞれの意味をつなげようとしている。
我慢は、昔からしているような言い方だった。
つまりずっと私に思っていたようなこと。
それも恋人である私に言えないようなことで。
………それは限られたことのような気がする。
恋人に我慢すること。隠し事。
……私は、せつなさんと本当の意味で付き合う時に聞いたある話のことを思い出していた。
…………せつなさんにとっては、苦い記憶。トラウマと言ってもいいのかもしれない。
そのことに対してどうということではないの。
ただ、せつなさんもそうした欲求があるということをふと気づいたの。
私はせつなさんの恋人でありながら、甘え、見たいせつなさんだけを見てきた気がする。
(……せつなさんも私と同じ人間で、たった一つしか違わない女の子)
あまりに当たり前のことだけど、私は恋人でありながらどこか理想のせつなさんを押し付けていた気がする。
……私はここ最近の自分の行為を汚らわしいとすら思ってきたけれど、もし私がそうならせつなさんだって汚らわしいということになってしまう。
好きな人を求めたいという気持ち。それは人間にとって、当たり前のことではある。
まだすんなりとそれを認めることはできないけれど、仮にせつなさんも同じであるのなら……私のせつなさんを求めた「汚らわしい行為」は別の言葉に置き換えることだってできる気がした。
……いつかの陽菜の言葉が頭をよぎる。
私が初めてしてしまう前に言われたこと、せつなさんと……え、っち……がしたいと言われたこと。その時は、恥ずかしいけれど嫌悪したりはしてなくて、ただその後に自分でしてしまったことに罪悪感は抑えきれなくなっていた。
あれはボタンの掛け違いだったのかもしれない。
もし仮にせつなさんに求められたら私はその行為を、今の状態で喜べたかまではわからない。ただ、嫌悪したり、いけないことだと思ったり、汚らわしいだなんて思わなかったはず。
……でも、せつなさんはきっと私を求めはしなかったはず。
そうだ。あの時にだって思ったじゃない。
キスの時と一緒。
せつなさんから踏み込むことは……できない。ううん、させてはいけないの。
神でなく、私と同じ人間なせつなさんに近づかないといけないのは、勇気を出さなきゃいけないのはのはきっと……
だから、私は
◆
遅くまで考え事をしていたけれど、朝はいつも通りに起きることが出来た私。
今日は朝食の当番と、一限目の必修授業があり朝食を用意してから身支度を整えると、せつなさんを起こして、いっしょにご飯。
せつなさんは今日はお昼からの予定だけど、ご飯はなるべく一緒というのが暗黙の了解になっていた。
私の作った朝ごはんを美味しそうに食べてくれ、話に花も咲いた。
昨日のことを気にしている様子はなく、せつなさんの中で心の奥に隠した話題として終えたということになったのかもしれない。
昨日までの私ならそれに甘えていたでしょうね。
ただ、ほんのわずかな考え方で心の行方を定めていた私は
「せつなさん」
決意を込めて好きな人のことを呼んだ。
「どうしたの?」
せつなさんは穏やかな顔。年上とした小さな彼女である私に見せる、本当だけど本当だけじゃない姿。
「今日、帰ったら話の続き、したいです」
「続き? なんの?」
「………せつなさんが我慢してる、ことにです」
「っ!!?」
驚き、お茶碗を落としそうになったせつなさん。
子供の私がそれを続けるなんて思っていなかったのかもしれないわね。
けど、いつまでも甘えるわけにはいかないから。
「それじゃあ、行ってきますね」
有無を言わせることなく笑顔でそれを告げて私は部屋を出ていった。