「んっ……ん、ん……」

 窓から差し込む穏やかな朝の光。

「ぁ……っ」

 けだるい疲労を感じる体。

「あ、れ……?」

 いつも寝ている布団じゃなくてせつなさんのベッドの上。

 目を覚ました私は体を起こすと、掛け布団がめくれて

「………ふぁ!?」

 何も身に着けていないことに気づく。

「えと……」

 頭がもやもやと霧がかかったようではっきりとしない。どうして裸でせつなさんのベッドで寝ているのか、この妙に疲れている体はなんなのかとその原因を探ろうと昨日のことを思い出していると。

「っ!!!」

 すぐに答えにたどりついた。

(そ、そうだ。昨日……)

 した……んだ。せつなさんと……初めて。

 思い出した私はぎゅっとシーツを握りしめそのことをかみしめる。

 緊張していて具体的には思い出せないところもあるけれどとても満たされた気がする。せつなさんが私の体に触れてくれて……その場所がせつなさんと一つになっているみたいに嬉しくて、それで………

「っ……ん」

 せつなさんが愛してくれた体を抱きしめる。

(幸せ……)

 それ以外の言葉が出ないくらいに幸せだ。恥ずかしかった、怖くだってあった。でも……その……言葉にするなんてはしたないかもしれないけど

(気持ち……よ……)

「渚。起きたのね。おはよう」

 心で何かをつぶやこうとした私の耳にせつなさんの……私を愛してくれた人の声。

 その声に惹かれながら視線を向けるとお風呂に入っていたのか髪をしっとりと濡らしたせつなさんがいて

「お、おはようございま……」

 挨拶をしようとしたのだけれど。

「っ……」

 よくわからない衝動につい顔をそらした。

(だっ、て……)

 なんだかせつなさんがとてもきらきらして見えて、すごくきれいで。……大好きで……恥ずかしい気がした。

「渚? どうか、したの? 体調でも悪い?」

 なんてせつなさんが少し焦ったように近づいてくると昨日、ベッドの上で嗅いだ甘い香りが鼻孔をついて

「だ、大丈夫、です!」

 心と裏腹な言葉出る。

 大丈夫なんかじゃない。せつなさんを見ていると昨日のことを思い出す羞恥と、それ以上に大好きっていう気持ちが心から湧き上がってまともに顔が見られない。

「でも」

「だ、大丈夫ですから」

「そ、そう……それならいいのだけれど」

 私の様子が通常でないのは明らかでせつなさんも納得はしていないけれど、少し悲しそうに言って離れてくれた。

「…………」

 それから何を話せばいいのかわからなくて私たちは沈黙する。

(何か、言わないと)

 これじゃまるで私がせつなさんのこと拒絶してるみたいじゃない。何か……何か……昨日のことじゃなくて、えと……

「……とりあえずご飯にしましょうか」

 結局何も言い出せなかった私はせつなさんが苦し紛れにしたような提案に頷くしかなかった。

 

 ◆

 

 朝の微妙な空気はところ変わっても変わらず、ご飯の最中にも私たちはぎこちない会話しかできなかった。

 それどころか食べている時には醤油を取ろうと手を触れ合わせただけで驚いてしまって醤油の瓶を倒してしまうなんていう失態すら犯した。

「うぅ……」

 朝ごはんも片づけを終わって、午前中の家事を一通り終えると各自自由にする時間でせつなさんは買い物があると言って出かけてしまった。

 いつもなら一緒に行くところだけど、今日は一緒にいるとまともでいられる気がしなくて部屋に一人でいた。

(そういえば)

 悶々とする思考の中でふと思う。

 私がせつなさんに対してよそよそしくなってしまう理由は説明できる。

 それは昨日のことを思い出して恥ずかしくなってしまうから。

 でもせつなさんはどうして? そりゃせつなさんだって恥ずかしいは恥ずかしいかもしれないけれど、でも私を避ける理由なんてないはずなのに。

「…………」

 私は意外にペシミストなところがある。理由のわからないことに悪い方向での思考をしてしまうことが多い。

(それに……)

 昨日は私がされるだけだった。普通、あぁいうことをするのってお互いにしなきゃいけないのに。私はせつなさんにしてもらうばっかりで、自分のことだけで精一杯で……

 それに……あ、【あの後】なんて私は気を失っちゃってせつなさんには何もしてない。

「っ……」

(もしかして……あ、呆れられちゃった?)

 自分ばかりが気持ちよくなるだけでせつなさんには何もできないで満足しちゃって。

 それとも私が初めてなのにあんなにえ……っちだったから、幻滅されたの?

 うまくできないどころか何もしないでせつなさんに愛してもらうことだけに悦んで……そんなのだから、全然せつなさんが期待したようなことはできなかったから。

 飛躍しすぎかもとは自分でも思う。け、けれど、実際せつなさんはあんなによそよそしくなっていて理由がつけられてしまう。

「ど、どうしよう……」

 明らかに杞憂な思い込みに囚われた私はせつなさんの真意に気づくことなく頭を抱えるのだった。  

 

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