「はわー……」
私は思わず、目の前にあるものを見上げてほうけた声を上げる。
「? どうしたんですか? 遠野さん?」
先輩には今まで何度も驚かされていた。突拍子のないことされたり、言ってきたり、色々あった。
でも、まさかこんなことでまで驚かされることになるとは思わなかった。
「ここって、先輩の家、なんですよね?」
「はい。もちろんですよ」
そういわれてもなかなか信じられないというよりは、現実を受け入れられない。
だって、こんな家に知ってる人が住んでるなんて信じられない。
まず、貴族のお屋敷って感じの門に圧倒されたし、門から家までが遠いっていうのにも世界の隔たりを感じる。
本宅のほうも、見た感じ三階建てな上に、横にも普通の家の二倍は余裕である。とにかく、庶民の家にはとても見えない。
「ほら、いきましょうよ」
「あ、は、はい」
「普通は驚いちゃいますよねぇ。ま、でも緊張しなくても大丈夫ですってば」
先輩って妙な感じに変わってるって思ってたけど、もしかして【お嬢様】ってやつなの? そう考えると、世間知らずなところとか……
「って、遠野さんってば」
考え込みそうになった私を先輩は手を引いて中へと導いていった。
綺麗に整えてある庭にも感心しながら私はやっと家に入っていった。
外からの見たとおり綺麗で、広々とした家の中。綺麗なフローリングの床、壁なんかにはところどころ観葉植物があっていちいちすごい。
「あ、おかえりなさい麻理子さん」
私が感心して観察してると、玄関のそばにいた先輩よりいくらか年上そうな女の人が先輩にそういった。
「はい、今帰りました」
「今日は少し早いのね、……あら、そちらは?」
謎のお姉さんは私を見つけると当然のように問いかけてくる。
「私のとっても、大切な人です。遠野さんって言います」
「ちょ、先輩!?」
そういってくれるのは嬉しいけど、初対面のそれも先輩の家族? にいきなりこんなことはさすがに。
ほら、お姉さん? が私のことじっと見てきてるじゃないですか。
「え、えと、と、遠野はるかといいます」
と、とりあえず失礼にならないように挨拶はしたけど……
「そう、麻理子さんのことよろしくね。はるかさん」
「あ、は、はい……」
【はるかさん】……呼ばれて嫌とかじゃないけど、初対面の人にいきなり名前なのに先輩は、もうっ!
「それにしても珍しいわね。麻理子さんが彩葉さん以外の人、連れてくるなんて」
(えっ?)
「あ、その話はちょっと……」
「ん?」
(彩葉さんって誰?)
「わかった。じゃあ、あとで飲み物でも持っていくわね」
「はい、ありがとうございます」
先輩がお礼を告げるとお姉さん? は廊下の向こうに消えていく。
私はそれを目で追う余裕すらなく先輩のお姉さん? が言った名前を必死に考えていた。
彩葉さん? 誰? 今まで先輩の口から聞いたことない人。保健室に尋ねてきた人にはそんな人いなかったって思う。
それに、彩葉さん以外って言ってた。つまりはこの家を訪れたことがあるっていうこと。それも頻繁かまではわからなくてもそれなりの回数を。
「あの〜、遠野さん?」
「先輩、彩葉さんって誰なんですか!?」
「そ、そんな怖い顔しないでくださいよ。友達、ですよ。遠野さんも会ったことある人です」
「?」
私が、いつ?
「ほら、前に私にテスト結果持ってきてくれた人です。彼女が彩葉さんっていうんですよ」
「そう、なんですか……?」
あの人? 確か、先輩のクラスの委員長さんで、そういえば仲よさそうだった。
(……もしかして、お休みにデートしてくれなかったのってその人と会ってるから??)
「言っておきますけど、幼馴染なだけであくまでお友達ですからね。変な想像しちゃダメですよ?」
「そ、そんなことしてませんよ! 私は先輩のこと信じてますもん」
思いっきりしてたけど……だってしょうがないじゃないですか。先輩のことよく知らないんだもん。
「ほんとですかぁ? ……まぁ、こっちも言わなかったのが悪いかもしれませんけど。っていうか、そろそろ私の部屋に行きましょうか」
「あ、はい」
そ、そう私はちゃんと先輩のこと信じてるし、今日は先輩の部屋で先輩ともっと仲良くっていうか【恋人】に近づくのが目的なんだから。
先輩についていって二階に上がるとまた広い廊下があって、そこを少しいったところに麻理子とプレートのかかったドアを見つけた。
(ここが、先輩の……って、あれ?)
先輩の部屋かと思ったそこを先輩はあっさりと過ぎていった。
「あ、あの先輩、ここじゃないんですか?」
「え? あぁ、そこは寝室です。普段いる部屋は別なんですよ」
「え、あ……そう、ですか」
えー、なにそれー。寝室とは別に自分の部屋があるってことなの?
なんかほんとに世界が違う。
その先輩の寝室から少しあるくとようやく、家の中を歩いてるのにようやくっていう表現を使うこと自体おかしいけど、ようやく先輩は足を止めた。
「さて、ここです。どうぞ」
先輩がドアを開けてくれたから私は、どきどきしながらも先輩の部屋に入っていった。