「失礼しました」

 私は軽く挨拶をすると先輩と一緒に保健室を出て行く。

 あの後、とっさに先輩から体を離した私は保健室の先生に軽く見てもらって、私の自己申告で大丈夫というとじゃあ、教室に戻ったほうがいいという話になった。

 そして、先輩も当たり前のようについてきてくれた。

「残念でしたね」

 隣を歩く先輩が面白そうに言う。

「な、なにが残念なんですか」

「ちゅーできなかったからにきまってるじゃないですか」

「べ、別に私は目を閉じてっていっただけです」

「さっきあんな告白してくれた割には素直じゃないですね」

「……さっきはどうかしてただけです」

 さっきっていうよりも、先輩を好きって自覚してからずっとなきもするけど。

「じゃあ、素直になってもらいましょうかな」

「え……!?

 先輩は急に私と手を取ると指を絡ませてきた。

「な、なにするんですか!?

 と、文句は出るものの振りほどいたりはしない私。

「えー、いいじゃないですかぁ。このくらい。授業中ですし誰も見てませんよ。嫌なら離してもいいんですよ〜」

「っ〜〜」

「あ、このままどっかいっちゃうって言うのも手ですよね。あ、遠野さんが体操着だから難しいですか。学校の中だと定番の保健室には先生がいますし……ほかには屋上とか体育倉庫とか、中庭あたりもありますけど」

「あの? 先輩?」

 また先輩が意味わからないことを言い出した。でもまぁ、いい。こういう所だって、私は好きなんだから。どんなところだって私の好きな先輩なんだから。

 こんな風に話しながらではあっても確実に歩は進めている。そして、学校というのは広いようで広くない。

 あっというまに一年生の廊下まで来てしまった。

「あーあ、もう着いちゃいましたね」

 残念そうにいいはするものの先輩は手を離そうとしない。

「離してくださいよ」

「えー、遠野さんは私と離れたいんですか?」

「そういう意味じゃなくて、もうすぐ授業だって終わるし誰かに見られたらどうするんですか」

「私は一向に構いませんけどね」

「……また、会いに行きますから」

「あーあ、遠野さんはまじめなんだから、もう。わかりました」

 拗ねた子供みたいにいいながらも先輩は手を離した。

(………)

 いままでそこにあったぬくもりが消えるのはどことなく寂しい気もしたけど……このぬくもりはいつだって感じられるんだから。

「あ、そうだ」

 手を離してもお互いなかなか別れを切り出せなかったけど、先輩は【いつもの顔】をする。

「? なんですか?」

 何か来るなとは思いながらもそれがなにかわからず私は首をかしげるだけで……

「っ!?

 いきなりほっぺに押し当てられた熱い感触に目を見開いた。

「ちゅ」

「な、なにするんですか!?

「お別れのキスですよ。やっぱり、さっきしてもらえなくて……ちょっと寂しかったですし」

 文句はいうものの嫌な顔はできない私。

「まったく、先輩はいつも急なんだから……」

 でも、いい、それが先輩。

「遠野さん」

 私の好きな、私の先輩。

「今度はちゃんと鍵かけてからしましょうね」

「っ〜〜」

 困らせられることも多いだろうけどこれからも私はこの人と歩いていきたいと思い

「あ、んっ……」

 今度は私からいきなりの口付けをするのだった。

 

3/七話

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