早くも転校をしてから一週間がたった。
幸いにもうまくやれているって思う。
クラスでの自己紹介こそ躓いちゃったけど、寮ではうまくできたと思うし冬海ちゃんや千秋さんが積極的に話しかけてくれたおかげで寮の中では幾人か話せる相手ができたし、クラスでもやっぱり千秋さんが何かと気を使ってくれて思いのほか早くなじむことができたと思う。
(やっぱり、帰ってきてよかった)
日本に帰りたいとは思ってたけど、両親から離れて暮らすっていうのも不安だった。
でも、勇気を出して戻ってきてよかった。
ここでならうまくやっていけそう。
「鈴」
「あ、千秋さん」
放課後、寮に帰ろうとしていた私はグラウンドの側を通っていると正面から走ってきたジャージ姿の千秋さんに声をかけられた。
「今帰り?」
「うん、ちょっと図書館によってたから遅くなっちゃった。千秋さんは、部活?」
「そ、大会も近いしね」
「ふぁ……すごいなぁ。私運動とかって駄目だから、走れる人って尊敬しちゃう」
「別にすごくはないよ」
「でも、エースなんでしょ? 冬海ちゃんが言ってた」
「うーん、部の中じゃ上の方ではあるけど、大会はこの学校だけで競うわけじゃないしね。私なんてまだまだだよ」
こんなこと言うけど、冬海ちゃんから千秋さんは県でも上位の方だって聞いてる。そそういう実績があるのに謙虚にこう言えて、上を目指してるってかっこいいなって思う。
冬海ちゃんじゃないけど憧れるっていう気持ちもわかるな。
「それよりも、今日で転校してきてから一週間だけどどう? もう慣れた?」
「あ、う、うん。まだ戸惑うこともあるけど、やっていけそう、とは思ってるよ」
「そっか、それならよかった」
千秋さんはまるで自分のことのように嬉しそうに笑って、困ったことがあったらいつでも力になるよ、と言ってくれた。
またも冬海ちゃんじゃないけど、下級生が憧れちゃうっていうのは本当に納得できる話だなって思った。
優しくて、かっこよくて、面倒見がよくて
(漫画とかなら、お姉さまとか言われてもよさそうなタイプかも)
実際に言われたりしてるかも。言われてもおかしくないくらいに素敵って私だって思う。
「ん? どうかした? 人の顔まじまじと見ちゃって、見惚れちゃった?」
「うん、そうかも」
ちょっと違うかもしれないけど、そう言ってもおかしくない。素敵な人とお友達になれてよかったなって改めて思ってたところだから。
「って、冗談に冗談で返さないでよ」
「ううん、冗談なんかじゃないよ」
「……う、ま、まぁありがとう」
千秋さんは照れたように頬を染めた。
(……可愛い)
その姿に今度こそ見惚れちゃう。
「さ、さて! そろそろ練習に戻んなきゃ」
「うん、頑張ってね」
笑顔で千秋さんのことを送り出す。
颯爽とかけていく千秋さんはやっぱりかっこいい。
(……本当に、初めての友だちが千秋さんでよかったな)
そう思って私は千秋さんとたくさん話ができたことを喜びながら寮への帰路を歩いていった。
千秋さんの裏側に気づけるはずもなく、そう無邪気に考えていた。