色とりどりに紅葉した木々の中を寮へと向かって歩く。

 時折、冷たい風が吹いてそろそろ秋の終わりを感じさせる放課後。

「そろそろ冬ですねぇ」

 たまたま帰りが一緒になった冬海ちゃんと冬の気配のする空の下を歩いている。

「同じこと考えてた」

「え!? そうなんですか。えへへ、嬉しいな鈴さんと同じだなんて」

 冬海ちゃんにぱっと元気よく笑う。そこには一切の陰りはなくてもうこの前寝込んでいた影響は感じない。

(……冬海ちゃんには笑顔が似合うから元気がある方がいいな)

 妹がいたらこんな感じなのかしら? 

 元気で、明るくて少し危なっかしくも思えて、守ってあげたいと思う。

「うぅ……でも、もうこの時間だとほんと寒いですね。そろそろコート出した方がいいかな」

「そうね。少し早いかもしれないけれど早めに準備しておいた方がいいでしょうね」

「あ、でも」

「っ!?」

 突然冬海ちゃんは私の腕に自分の腕を絡めませてきて、そのまま体を寄せる。

「こうしてれば大丈夫かな。鈴さんってあったかいし」

「…………」

 この前調子悪い時に迎えに行ったことと、看病をしてあげたことでなつかれたのか最近はこうしたスキンシップをしてくることが多い冬海ちゃん。

 何にも他意も、邪心もなくこうできる冬海ちゃんの純真さがまぶしく見えると同時に愛おしくも感じる。

「……歩きづらいよ」

 体を拭いてあげた時のように情欲を持ったりはしないけれど、完全な無心にもなれず私はわずかな沈黙の後にそう言った。

「はぁい」

 私が意識をしすぎているのか、冬海ちゃんが純粋なのか。それがわからないけれど、離れた温もりが少しだけ寂しくも思える。

「あ、そういえば鈴さんって千秋先輩とケンカしてるんですか?」

 他愛のない会話をしながら帰路を歩いていくと、ふと冬海ちゃんからそんな言葉をもらってしまう。

「……そう、見える?」

「見えるっていうか、つい最近まで千秋先輩がよく部屋に来てくれたのに全然こなくなっちゃったじゃないですか。だから、喧嘩したのかなって。駄目ですよ、ちゃんと仲直りしないと」

「……憧れの千秋先輩に会えなくなっちゃうもんね」

 千秋さんに対する意識の差を理解している私はそんな風にちゃかして見せた。

「もう、そういうことじゃなくて。喧嘩したら仲直り。これ、基本です。まして寮の中で毎日顔を合わせるんだから喧嘩してるなんて嫌じゃないですか」

「……うん。わかってる。ありがとうね」

 芳しくない返事。

 冬海ちゃんはそんな私を少し頬を膨らませてから、軽々しく突っ込むことじゃないと判断したのかそういえばと話題を変えた。

「千秋先輩って、今は陸上をやってますけど。昔は違うことしてたらしいですよ」

「そうなんだ」

 それは初めて聞く情報だった。まだ何も知らんかったころは千秋さんとよく話をしたり、見ていたけれど陸上に関してすごく真剣に取り組んでるみたいだったから。他の部活に入っていたというのは意外な心地。

「何してたの?」

「えーと、私も人づてに聞いただけですけ……」

 最後まで言いかけて冬海ちゃんは口も足も止めた。

「どうかしたの?」

 と、少し先に行ってしまった私が声をかけても耳に届いていないようで、私も冬海ちゃんの視線と同じところに目を向けると

「…………」

 多分冬海ちゃん以上の驚きをもってそれを見つけてしまった。

 視線の先、グラウンドの隅にある大きな欅の木。その下にいたのは私を悩ませている二人。

 千秋さんと蘭先輩。

 その……唇の重なった姿。

「…………」

 それほど驚いていない自分がいる。というより、驚きの方向が多分冬海ちゃんとは異なっている。

(……学校でもするんだ)

 私が思ったのはそれ。

 もう放課後のそれも下校時間ギリギリではあるけど、グラウンドにはまだ人が残っている。二人のいるところは目立つところではないけどこうして見られてしまう位置でもある。

 これまでされたことはないし、見たこともない。だから寮以外でそういうことをしてるんだっていうことを意外に思った。

 学校での蘭先輩はみんなの憧れるお姫様だったから。

「…………………」

 ただ、衝撃が少なかったのも意外って思ったのも私の感想。何も知らない冬海ちゃんは……

「っ……」

 驚きのあまりに明けた口すら閉じることができずに固まっていた。

 普段は愛らしいその顔に戸惑いと衝撃を宿すその姿もまた初めて見る顔で

(……これが普通の反応なのよね)

 秘密の花園を覗いてしまった、普通の少女の反応。見えていなかっただけで彼女の傍らに存在した彼女の知らない世界。

(……ショック、よね)

 たとえ知らない人相手でもその驚きは言葉にできないだろうけど、冬海ちゃんにとってあの二人は特別。その衝撃は計り知れない。それこそ、自分の世界を変えてしまうほどに。

「冬……」

 何かをしてあげたいと思ったけれど、冷静に今を受け止めてる私になんて多分そんな資格はなくてどうすることもできない。

 何もできず二人を眺めていると、二人の間に穏やかじゃない雰囲気を感じたような気がする。

 声も聞こえなければ、表情も見えないけれど、千秋さんが蘭先輩に何かを訴えているようなそんな雰囲気。

 そんなやり取りが少し会ってから

「ぁ………」

 再び、唇を合わせていた。

 今度は深いキス。とても学校の中でしていいようなものじゃない……私が普段あの人としているようなキス。

 しかもそれだけじゃなくて、蘭先輩の手が千秋さんの体に伸びて胸に触れている。

「ふ、冬海ちゃん」

 さすがにこれ以上を見せるわけにはいかなくて私は冬海ちゃんを呼ぶ。ここから立ち注そうと

「…………」

 けれど、冬海ちゃんは我を忘れ食い入るように二人を見つめていて、その間にも蘭先輩の手は千秋さんの体をまさぐっていて

「い、行くよ」

 私は強引に冬海ちゃんの手を引いてその場を立ち去った。

 それは冬海ちゃんがこれ以上ショックを受けない様にとの想いからだったけれど、そのすれ違いは新たな間違いを生む。

 

4−2/4−4

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