とぼとぼと学校へ戻った私は昼食もとらず、午後の授業もぼーっとしたままほとんどノートも取れずに過ごして気づけば放課後になっていた。
(……私は……)
自分の浅はかさが辟易としてしまい放課後になって千秋さんのいる寮に帰ろうとは思えず校内をふらついていると
「あ…………」
昨日千秋さんと蘭先輩が話していた場所で、同じ人を見かけた。
私と同じように彼女も千秋さんのことを考えているのだろうか。昨日と……いや、私に本音を吐露した時と同じような切なげな顔を
(……本音?)
心でそう評してしまったことに動揺する。
(あれが本音のはずはない……のに)
「っ……鈴ちゃん」
動揺を抑えきれていなかった私がその場にとどまっているとその気配に気づいたのか蘭先輩が振り返り私を呼んだ。
「………………」
私は何も言葉を発せずにただ蘭先輩を見返す。
(この人はなんなの?)
していることはとてもまともな人間のすることじゃないのに、それを罪には感じていてもおかしいとは思っていない気がする。
「? 何か、用?」
それにこういう言い方はしたくないけれど、本当この人が私の思うように自分勝手で他人を自分の道具のようにしか考えてないのであれば千秋さんが本気で好きになるはずはない。
だからといってこの人のしていることが許されるわけではないだろうけれど……
「昨日千秋さんとここで話していましたよね」
私は彼女からしたら長い沈黙を保った後にそう言った。
「見ていたの?」
「はい」
「そう」
蘭先輩は短く答えるだけでそのことに対して感想を述べたりはしなかった。
この人と話したいとは思えていなくて立ち去ってもいいはずだけれど
「蘭先輩は千秋さんのことをどう思っているんですか」
気づけばそんなことを口にしていた。
答えを聞くのが怖くもある。この人は想像の外過ぎて、知る必要のないことまでも知ってしまいそうだから。
でも、聞かずにもいられなかった。
「………貴女に説明しても理解できないことよ」
そんな気はする。この人のことを理解するのは私にはきっと不可能だ。
そう思わされるほどこの人は違う。普通の理では測れないようなそんな考えを持っている。
(私が普通だなんて言っていいのかはわからないけれど)
自虐的にそう思ってもそれでも知りたいと思った私はそのことを口にしていた。
「それでもいいです。教えてください」
「……幸せになって欲しいって思うわ」
「っ………」
蘭先輩の答えはふざけているようにも聞こえた。
いや、ふざけているようにしか聞こえない。
なによりそれを阻害しているのは自分自身のようなするのに。
でも、不思議と嘘という気もしなくて私は沈黙するしかなかった。
「でもそれは私とじゃない。ううん、私にはそんな資格ない」
「……千秋さんは貴女のことが好きじゃないですか」
「そうね……でも、私には千秋を……ううん、誰かを幸せにする権利なんて多分ないもの」
(また)
私が感じたのは私に謝罪をした時と同じもの。
正体不明の罪悪感と胸の締め付けられるような思いに駆られ言葉が詰まる。
「な、なら、せめてはっきりさせるべきなんじゃないですか? このままじゃ千秋さんが憐れです」
それでも私は黙りたくはなくて……違う、この人を非難することを止めたくなくて若干震えながら言われたくないはずのことを言った。
「……………」
蘭先輩は冷めた目をしながら私を見ている。冷めたと言っても呆れているということではなく自分の心の中を見つめ直しているようなそんな印象。
その沈黙が一分ほど続いただろうか。
「そうね。貴女の言うとおりだわ」
急に諦観したように微笑み、蘭先輩は私の横を通り過ぎると
「っ……」
ある言葉を発してそのまま歩いていった。
幻聴のようにすら感じたその言葉
ありがとう
それが何を意味するのかは今はまだわからなかった。