すみれはかわいいやつだ。
見た目は美人そのものだがすみれを知れば知るほど、「かわいい」と思うことが増えた。
世間知らずなところや、それでいて傲慢で高圧的な所。かと思えば変なところでは素直だったりしおらしかったり、美人という認識に変化はないがほんとにかわいいやつだとどんどん思えてくる。
一緒の時間が増えれば増えるほど本当にすみれはかわいくてかわいくてたまらない。
◆
「っ……は……ぁ……ふ、あ……はぁ」
休日の昼下がり。
ベッドの上で恋人が荒く息を吐いている。
顔だけではなく整った美しい裸体を晒して。
その肌は赤みを帯び、呼吸のたびに上下する胸にはまだ先ほどまでの行為の残滓が残っている。
「今日もかわいかったわよ、すみれ」
すみれと異なり余裕のある私は体を起こしている私は壁を背中を預けながら湿り気を帯びたすみれの髪を梳く。
「……う、っさい」
愛を確かめ合った後だというのに、愛しの彼女は憎まれ口をたたいてくる。
それがまた可愛らしい。
「……は、ぁ……なんで、いつも……私がされてるのよ……ふぁ」
「すみれがすぐふにゃふにゃになっちゃうからじゃない?」
「っ………黙りなさいよ」
寝ころびながらもこちらに強い視線を送ってくる。少し前まで私に散々泣かされていたっていうのにこういう態度がとれるのだからやはりかわいいやつだ。
(本当に、かわいかった)
すみれとセックスをするときは私がすることが圧倒的に多い。宣言するわけではなくて流れでというのが定番ではあるけれど、すみれの意気込みはいつも感じている。
でも、キスをして体に触れていくとすみれのその気概も折れて気付けば私のなすが儘。
もちろんそんなに単純ではなくて、道中には「待って」とか「私が……っしたい、のに」とか抵抗を感じさせはするけれど、最後には結局今の光景に至る。
(それも仕方ないけれど)
なんせすみれと私では経験が違いすぎる。まして、早瀬とはそういうことを主とした関係だったと言ってもいい。
そりゃ人によっていいと思うところは違うが、それでも数えきれないほどの経験から反応を見ればどこがいいかなんて大体わかる。特にすみれは少女だから。
未知の感覚に翻弄されるすみれは本当に可愛らしくて、ついついやりすぎてしまうのだ。
(それをいうと怒るし、意地になっちゃいそうだから言わないが)
もちろん、すみれに愛してもらうのも大好きだけれど、とすみれに向けて先ほどとは異なる優しい視線を送ると
「……っふん」
気持ちが通じたのか少し照れたように鼻を鳴らして顔を背けた。
いや私の心が伝わったわけじゃないでしょうけれど、でも何かは感じ取ってくれたんでしょうね。
(次は素直にさせてあげましょうかね)
いまだに一生懸命で、少し不安そうに私を感じさせようとしてくれる姿はいつまでも見れるものじゃないだろうしそれを堪能するのも悪くはない。
そんなことを考えながら、のどの渇きを潤そうとベッドボードにおいてあるペットボトルをとる。
「ん、んっ……んく」
部屋の暖房でぬるくなった水だが疲労している体には心地よく、のどを通していく。
「文葉、私にも頂戴」
その様子をみたすみれが体を起こしてきた。
「ん……」
まだペットボトルに口をつけてた私は視線だけを送り
「は……」
口を離すと素直に渡そうとして、
「…………」
水を上げるという行為に「はじめて」の時を思い出して、
「ちょっと」
もう一度ペットボトルに口をつけ、口の中に水を含んだ。
「くだらない嫌がらせをしてんじゃ……っ!?」
私の真意を理解せずにプリプリと怒って見せるすみれだが、抗議を最後まで口にすることはできなかった。
「っ、ん、……ぷ、…ぁちゅ……ぷあ」
私の口がすみれのそれに重なったから。
「ちゅ、く……くぷ……じゅ、ちゅ」
すみれが望む通り水を与えてあげているけれど、すみれに受け入れる準備ができていないせいでびちゃびちゃと漏れ、体を濡らしていくのが見える。
それでもかまわずに水を流し込み、ついでに舌を差し込んで潤ったすみれの口内を堪能する。
「っ……は、っ……あ、な、なんなのよ」
「あら」
だがすみれは意外にも抵抗激しく私を引きはがすと残っていたわずかな水がすみれの身体へと落ちた。
「水が欲しいって言ったから望み通りにしてあげたんじゃない」
「それがなんで口移しになるのよ」
「いいじゃないこういうのも定番でしょう?」
「な、なんのよ」
「恋人の。ほら、この前あんたが早瀬に借りてた本にもこういう所あったはずだけど?」
「っ……!」
性のこととは別に顔が赤くなる。
私の前ではその本を読んではいなかったけど、「どんな本」かは知っているから。
「ばか! 馬鹿! 変態!」
(……………やれやれ)
なんてかわいい反応なんだか。
この見た目でたまに中学生くらいな反応をしてくれるんだからほんとたまらない奴だ。
「……………」
「な、何よ」
水に濡れたすみれの体。先ほどよりも色気が増して見える。
(ま、私の見る目の問題だけど)
あの本だと確か、水の後は……
「ふふ」
これからのことに自然と愉悦が沸き上がりつい笑いが零れる。
「文葉……?」
通じ合ったというか、さすがにすみれも私のことを理解してくれていることは多い。
この後の展開も読めてしまうのでしょうね。
本の通り、というよりも私の性格がそうさせるのもわかっているはずだ。
「どーん」
せっかく起き上がってきたすみれを再び押し倒す。
眼下のすみれは怒りでも期待でもなく私への諦観が出ていて、不本意なことに私への評価を感じてしまう。
でもそれは理解をされていることだと前向きに考えることにして、少し前に次はすみれにさせてあげようなんて考えていたことも頭の隅に追いやった。
そして
「愛してるわよ、すみれ」
この場面では誠意を感じさせない、しかし心からの想いを伝えて再び体を重ねていくのだった。