あー、言っちゃった。言っちゃったよぉー。好きって。ついに、ついに、告白しちゃった!
もうどうにでもなっちゃえ!
気恥ずかしさでいっぱいだったけどとにかく目だけは背けないで宮月さんのことを見つめ続けた。
宮月さんは少しの間驚いたようだったけどすぐにいつもの無垢な笑顔に戻って、「うん」と小さく頷いた。
「私も、水梨ちゃんのこと好きだよ」
そして、衝撃的な一言。
「え……」
そ、それって、好意的に解釈っていうか、普通に解釈しちゃうと。つ、つまりー……
おっけー、ってこと?
やっっっったーーー!!!
と、心の中で大きくガッツポーズをし……
「だって、お友だちだもんね」
「え、と……お友だち?」
「うんっ」
うっわ。すんごくいい笑顔で頷かれちゃった。沸騰気味だったあたしの頭が冷水でもかけられたみたいに冷えていく。
「水梨ちゃん、話ってそれだけ?」
「う、うん」
こ、これって……もしかして、もしかしなくても伝わって、ない?
「じゃあ、ごめんね。この後お母さんとお昼食べにいくからもうそろそろ行かないといけないの」
「え、あ……」
ちょ、ちょっとまって! ここで、このまま別れたったりなんてしたら……もう会えなく……
「あ、そーだ」
踵を返そうとした宮月さんは何かを思いついたようにまたあたしに向き直った。
「水梨ちゃんって携帯電話もってるよね?」
「あ、うん。あるよ?」
「よかったら、メールとか教えてくれる?」
「え? いい、けど。宮月さんって携帯持ってったっけ?」
一応持ち込みが禁止されてる学校の中だけど、そんなの気にしないでみんな持ってきてるけど宮月さんが持ってるのなんてみたことない。
真面目だから持ってきてないだけなのかもしれないけど、持ってるって話自体聞いたことない。
「うん、あるよ。でも、お母さんとの連絡用に使ってるだけで、お友達には教えちゃいけないって約束してるの」
「え、じゃあ、いいの?」
「うん」
え? え? さ、さっきあたしのこと好きっていうのは誤解だったけど、これはもうあたしが特別って解釈しちゃっても問題ない、よね?
心の中で今度こそガッツポーズを……
「高校生になったらいいよって約束してるんだ。あ、本当はまだちょっと早いからみんなには秘密にしておいてね?」
と、またガッツポーズはとり損ねたけど、
(秘密……)
あたしと宮月さんだけの……二人の秘密。
あたしは有頂天になりながらアドレスを交換する。
(へへー)
と登録し終えたところで重大なことに気づいた。親に秘密ってことは……
「あ、じゃあ、メールとかしたら迷惑?」
「ううん。あ、でもお母さんにばれないようにするからすぐには返せないかもしれないのは先に謝っておくね」
よかったー。せっかくアドレスをゲットしたのに一ヶ月近くもメールできないなんて生殺しだもん。
安堵に胸を撫で下ろしてると宮月さんが、ふふ、っと嬉しそうに笑った。
「でも、嬉しい。お友だちとメールとかするの楽しみにしてたんだ。いっぱいしよーね」
深い意味とかなしに何気なくいってるんだろうけど、無邪気にそんなこと言ってくれるのがこれ以上ないほどに嬉しい。
「う、うん! じゃ、じゃあ今日夜にでもするね」
「うん、楽しみにしてるから。あ、そろそろほんとに行かないとお母さんに怒られちゃう」
「あ、ご、ごめんね。予定あるのに引き止めちゃったりなんてして」
「ううん。水梨ちゃんと話せて嬉しかったよ。じゃあ、またねー」
宮月さんは歓喜を余すことなく表現した笑顔を残し、スカートのプリーツをちょっと大げさに乱しながら小走りに去っていった。
あたしもにんまりとそれを見送って
「【またね】だって……」
普通のまたねじゃない。卒業式っていう今日、人との縁が切れることもあるその日にまたねっていう言葉をもらえるのは普段何気なくいうまたねとは全然違う意味を持つ。
つまり次があるっていうこと。卒業しちゃっても、学校で会うことがなくてもまた会えるっていうこと。
「……やった!」
今度は心の中じゃなく体中で喜びを表した。
気持ちはうまく伝わんなかったけど、でも、よかった。嬉しい。クラスメイトから正式に友だちになったってだけで一歩どころか半歩進んだだけなのかもしれないけど、それでもあたしは体の中から心底湧き上がる喜びに頬を綻ばせ、親友たちのところに戻っていった。
半歩でもいいや。
これからはいくらでもチャンスがあるんだもんね!