あの日から毎日、あたしたちは三人で【特別】な日々を過ごした。でも、それはいつもとは違ったかもしれない。ちょっとした違和感を抑えられなかった。
そして、わかった。美咲の気持ち。美咲はそうなりたくなかったからあたしたちに黙っていたんだって。【いつも】で【特別】な日々が欲しくて黙っていたんだって。
わかっても、どうしようもないことだけど、わかった。
……美咲がいなくなってからはなおさら。
人は、一週間でどんな環境にも適応をしめすっていう。
一週間、たった。でも、なれることなんてちっともなくて、今日も朝が来る。
「ん、ぅ……」
朝の寒さに身を震わせながらあたしは目を覚ました。目覚ましはまだなっていない。美咲がいなくなる前は美咲が起こしにくる前に体が勝手に起きてたから、その名残。
ベッドが下りた先に美咲がいないってことを確認すると、わかってるのに寂しくなる。それを確認して、その現実からそむけるように寝返りをうつ。
それがこの一週間のあたしの朝。
今日も目を開けて、大切な人の姿がないことを確認して……
して……?
(………???)
目を開けた先、そこには。
誰も、いない。
代わりに、
(………え?)
背中にぬくもりを感じていた。
は?
と、わけわからない。でも、その異常な状況になぜか一切不安を感じることなく恐る恐る寝返りをうつと、
「っ……」
涙が出てきた。
いつも人を小馬鹿にしてそうなツリ目。何かとあたしやゆめをからかうプルっとした唇、腰まで届く長い髪は寝るときには邪魔になりそう。
(な、なんで、美咲、が……)
隣で寝ていたのはいなくなったはずの美咲。すぅすぅと気持ち良さそうな寝息を立てている。
「み、美咲!」
あたしは夢でもみてるのかと思いながらも大声で、かけがえのない親友の名前を呼んだ。
「ん、んう?」
美咲はその一言でだるそうに目をぱちぱちとさせて隣にいるあたしにロックオン。
「あ、お姉ちゃん。おはよう」
何事もなかったかのように挨拶してきた。
「お、おはよう」
おはようって言われたんだから当然あたしも、そうかえし……
じゃなくて!
「な、なんで美咲がいんの! それにお姉ちゃんって何!?」
「朝っぱらから大きな声出さないで、近所迷惑よ?」
「でるよ、でる! 引越ししていなくなったはずの親友がいきなり隣で寝てれば」
「細かいことをいちいち気にしない」
「全然細かくない!」
嬉しい、確かに嬉しいよ? でも、いくらなんでもこれはありえなさすぎてパニックになる。
「な、なんでここにいんの?」
あたしの当然すぎる問いに美咲はベッドで向かいあうのは崩さないままあたしに笑いかけた。
「彩音が私の引越し知った日のこと、覚えてる?」
「わ、忘れるわけないじゃん」
「夜、一緒に流れ星探したわよね。それで、彩音なんてお願いした?」
それこそ忘れるわけない。叶わないからこそ願ったあたしの本当の気持ちなんだから。
「……ずっと美咲といれますようにって」
「そう」
美咲は確かめるように頷いた。
「私も、彩音とずっといられますようにってお願いしたの。彩音の一回半と私の一回半。合わせて三回。だから、お星様が願いを叶えてくれたのよ」
嬉しそうに、本当に嬉しそうに美咲は笑った。
「な、なにそれ、わけわかんないんだけど」
「プロポーズしてくれたのは彩音よ? 一緒に住もうって」
「ふ、ふったじゃん。あたしのこと」
「あの時はね。でも、ゆめに話した時、二人して子供みたいに泣いちゃって、あんた達にはまだまだ私がいなきゃ駄目って思ったのよ」
それは、……頷く。けど
「……素直に言えば? 美咲のほうこそあたし達がいないと駄目なんだって」
「否定はしないわ。本当は彩音に言われたときからそうしようって思ってたんだけどね。ゆめのことで決定的」
ベッドで寝そべったままあたしたちはふふ、っと笑いあった。
目の前に美咲の顔がある。手を伸ばす必要もなくぬくもりも感じられる。
(これを嬉しいって言わないんだったら、この世に嬉しいことなんてないよ)
「じゃ、なんで一週間もいなくなったりしたわけ?」
「荷物送ってたし、ま、色々ね。それに、こうしたほうが感動的でしょ?」
美咲らしい、あたしをからかうクスクスとした笑い。
「ば、バカなんじゃない。そ、そんなくだらない理由で」
「あ〜ら、くだらないなんていうんなら何で泣いてるのかしら?」
「こ、これは……つ、つか、なんで連絡もなしなわけ?」
「したわよ?」
全然聞いてなんだけど………
「……彩音以外には」
「は?」
「だって、教えちゃったら感動が薄れるでしょ? 今日から置いてもらうことになってて、朝一番に来たのはいいけど彩音がまだ寝てたからおきるの待ってたの」
「それでなんで隣で寝てんの……」
「昨日あんまり眠れなかったから、せっかくだし。それにこっちの方が驚くかと思って」
驚く以前に……普通呆れるって。
あたしは言葉にはしないでため息をつく。
「親とかに連絡がいってるのはいいけどさ、普通はあたしに話をするのが一番でしょうが。あたしがやだっていったらどうするつもりなの」
この提案したのはあたしだし、美咲を追い出すつもりだって一ミリもないけどこんなことだって言いたくなるって。
「お姉ちゃんのこと、信じてるから」
「つか、その【お姉ちゃん】ってなに」
「ん、一緒に住むんだし。彩音のほうが誕生日はやいからせっかくだし、そう言ってみようと思って」
「……たった五日の差でしょうが」
「いいじゃないの、お姉ちゃん」
……難儀な妹ができたものだ。
内心苦笑する。でも、顔が緩むのは抑えられない。
それは美咲も同じみたいで、胸の内からどんどん溢れてくる嬉しさに頬を綻ばせて目に歓喜の涙を浮かべる。
しばらくそうして、体を半身にしながら同じベッドで、同じ枕に頭をおいて、同じ気持ちで、世界で一番大切な相手の幸せな笑顔を見つめ続けた。
「……愛してるわよ、お姉ちゃん」
「…………バーカ」
そして、今日も一日が始まる。
【いつも】で【特別】で
なにより【幸せな】一日が。