昼休み。
普段であれば結月のところへ赴き一緒に昼食を取るのだが、この日はそうはいかなかった。
玲菜自身、いつも通りという気分でいられないのはそうだが原因はそのことでなく、昨日のことがきっかけになっていた。
二番目は、
「忘れてくれと言ったはずだが、天音」
天音だ。
昼休みになると同時に玲菜の教室に来て、玲菜を部室へと誘ってきた。
姫乃の時と同様、一度は話さなければならないという義務感を持っている玲菜はおとなしくそれに付いていき、二人きりの部室で向き合っている。
「……………」
玲菜の定型句のような言葉を無視して、天音は真剣な表情で玲菜を見つめている。
(?)
玲菜はそんな天音に若干の疑問を感じた。
真剣な表情がおかしい訳ではない。ことがことだ、玲菜自身はそこまで大きなことと考えていなくとも天音が大げさに考えてしまうことは玲菜にも理解できる。
だが、そういうこととは違う顔をしているような気がした。
「玲菜先輩………」
玲菜がほぼ確信に近い形でそう思っていると、天音はその重苦しい雰囲気をそのまま声に乗せた。
玲菜は朝姫乃と話した時のようなあの息苦しさを感じなければならないことに身構えるが、
「好きです」
天音が口にしたのは玲菜の予想をはるかに外れたものだった。
「私と、付き合って下さい」
「なっ………」
聞き間違えや、もしくはただの好きということでなくどういう好きかということまでもわからせる天音の告白。
「な、何を言っているんだ」
心を沈め、できる限り感情を殺して対応しようとしていた玲菜だがこれにはさすがに狼狽する。
「何の冗談なんだそれは」
正式な告白を受けるのが初めてな玲菜は普段の冷静さを保つこともできず天音の本気を、本気と受け取ろうとしない。
「冗談なんかじゃないです。本気です。本気で玲菜先輩のことが好きです。もうずっと前から玲菜先輩のことが好きでした」
「っ………」
玲菜は自分への評価が低い。結月はともかくとしても自分が人に好きになられる存在であるとは考えられない。その上、人の感情を理解することも不得手だ。
だが、これはわかった。冗談などではなく、本気で自分が想われているのだと天音のもつ何かが伝えてくる。
「……私は、君に想われるような人間ではないよ」
しかし、玲菜は天音の本気をわかってもそうやって返す。
「そんなことありません。玲菜先輩は素敵な人です」
「…………」
玲菜はあえてどこがとは返さない。おそらく今自分を否定する言葉を口にしたところで、天音は必ずそんなことはないと言ってくるであろうから。
「私は玲菜先輩が好きです。初めて会った時から憧れて、一緒にいるうちに変わってるけどおもしろいなって思って……なにより私を助けてくれた」
「…………」
どのときのことかというのは想像はついたし、それがそう思われても仕方のないことだということは玲菜にも、共感はできないが理解はした。
だが、やはり天音はどこか普通ではない雰囲気を持っていて玲菜は天音の様子をうかがうことしかしなかった。
「私、玲菜先輩ともっと一緒にいたいです。いつだって玲菜先輩の隣にいたい。玲菜先輩のことを支えたいんです」
「っ……」
ここで天音の様子を気にしてばかりだった玲菜は別の反応を示した。
天音の意図を正しく汲み取っているかは定かではないが、支えたいという言葉が暗にリストカットのことを言っているような気がしたから。
「君の気持ちが嬉しくないとは言わない。結月以外に好きと言ってもらえたのなど初めてだしな」
「…………」
無意識に玲菜が結月といっているのを聞いて天音は自分の中の決心を固める。
「だが、私は君の気持ちには応えられん」
これは相手が天音だからではない。誰が相手だろうと同じように答えていた。
「話がそれだけなら私は行かせてもらう」
玲菜はそれを言うと早くも天音に背を向けた。
天音の様子が気にならなかったわけではないが、あのことへと話が発展するのであればこれ以上ここにいる理由はない。
「待って、ください」
ここに来て最初に玲菜のことを呼んだときと同じように、いやそれ以上に重い天音の言葉が玲菜の耳に響いた。
反射的に振り返った玲菜は天音が、今にも泣きそうな顔をしていることに狼狽し
「……なら、あの事みんなに言います」
何故天音がこんなにも苦しそうなのかという理由を垣間見た。