寮の最上階、あまり人のこないその場所で私は一人、ポツンと窓辺に立っていた。昼間だというのにそこは少し暗くほこりっぽくもあり、この階だけは古びた洋館のようだった。

両開きの窓に佇み、光を受ける私は外からでも見れば囚われのお姫様とでも見えるかもしれない。

……自分が綺麗だとかいうつもりはないが。

 レディ・グレイでもあれば飲みたい気分だが、こんな所ではあの香りはともかく、やはりほこりの立つような場所では飲むがおきない。

 紅茶があれば、それこそ映画のワンシーンにでもなるかもしれない。

 外の森を何気なく眺めていると、タッタッタと階段を上ってくる音が聞こえてきた。

「お、朝比奈。こんなとこで何やってるの」

「別に…少し考え事。夏樹は、何か用?」

「用ってわけじゃないけど、ま、気にしないで」

「相変わらず、悩みもなさそうでいいわね」

 夏樹はいつも明るく、はつらつとしている。天真爛漫とでも言えばいいのだろうか。なんにせようらやましいことこの上ない。

「人をバカみたいに言わないで。なに、朝比奈は悩みでもあるわけ?」

「悩みってほどじゃないけど……それなりには、ね」

「んしょ、っと。あたしでいいなら聞くけど? あ、つか、あたしなんかよりも涼香に言うか」

 夏樹は窓縁に腰を下ろした。

 ……埃が立つからやめてといいたいが、すでに遅い。

「わかってていってるの? 涼香に話せるならここにはいないわ」

「なに? 涼香と喧嘩したの。取っておいたプリン食べちゃったとか?」

「……それ本気でいってるのなら尊敬するわね。夏樹じゃあるまいし、そんなことするわけないでしょ」

「微妙に気になること言ってくれるね。否定できないけど」

「って、出来ないの」

 呆れて夏樹を見ると、若干震えている。

 一見冗談にも聞こえるが、多分本気だろう。多分、それで梨奈にでも折檻されてるのだと思う。

 梨奈は他の人にはともかく夏樹には容赦なさそうだから。

「……美優子のこと、というか美優子と涼香のことね」

「美優子? あぁ、えっと西条だっけ? あたしあの子と話したことほとんどないんだよ。梨奈とか涼香からたまに話し聞くくらいでさ」

 確かに夏樹と美優子はほとんど接点がない、美優子は自分の家の夕飯に間に合うように家に帰るし夏樹が部活から戻ってくるのは丁度その時間だ。

「んで、それがどしたの?」

「別に、ただ美優子は涼香のことだけ涼香って呼ぶなと思って」

? それっておかしくないじゃん。涼香と仲いい人はみんなそう呼ぶし、あたしだって朝比奈のことは朝比奈だけど涼香は涼香って呼んでるし、そんなんでやきもちやかれるんならあたしなんて今頃あんたに刺されてるっての」

「夏樹には、梨奈がいるし……そもそもそういうことじゃなくて少し前までは友原さんって呼んでたのよ。それがいつのまにか涼香って呼ぶようになって……」

 ……涼香だって丁度そのころ少しおかしかったし。なにか確信があったわけではない。ただ、ずっと一緒にいて、見てきた涼香の違和感のようなものを感じた。そして、それはおそらく正しかったのだろう。

「よくわからないけど、それで涼香があの子に盗られちゃうとでも思ってんの?」

「そういうわけじゃ……」

「あたしはそんな心配ないと思うけどなー。あたしから見たら二人はすごい自然だし、誰かが入る余地なんてなく見えるよ」

「……ありがと、気休めでも一応御礼言っておくわ」

「気休めなんかじゃないって。つか、そんなに不安ならもう少し積極的になってみれば? 涼香だって朝比奈になら……」

「やめて!

 夏樹の無責任な言葉に私は思わず声を荒げた。

「なっ、いきなり、どしたの?

 夏樹は窓辺から降りて、私と向き合った。

 私も背は高いほうだがそれでも夏樹と向かい合うと負けてしまう。

「……ごめんなさい。でも、そういうことは言わないで、じゃないと私は……」

 涼香は答えを出してくれるといった。いつになるかわからないけど、きちんと答えてくれる、と。

私は涼香のその言葉を信じてる。信じて待っているのだ。

せつない夜を何度も過ごした。やりきれない思いを幾度も抱いた。抑えきれなくなりそうなことだってあった。

その度に唇を噛み締めてきた。

私から何かをするのは涼香を、好きな人を信じられないって言っているようなものだから。

だから、私は涼香を待つ。

本当は今すぐにでも涼香と手をつなぎたい、抱きしめたい、抱きしめられたい、キスしたい、キス、されたい。

それでも、私は待つ。それは……拒絶されるのが怖いだけなのかもしれない。一緒にいられなくなるのを恐れているだけかもしれない。でも、やっぱり私は好きな人を、涼香を信じたいのだ。

「朝比奈?」

「あ、うん」

「どしたの? 急に上の空になって。ま、いいや、いやよくはないけど。あたしでも相談に乗るくらいはできるから、何かあったら遠慮なくいいなさいよ。あたしは涼香といる朝比奈が好きだし、朝比奈といる涼香のことが好きだから」

 こんなことを言ってくれる友達ができたのだって涼香のおかげなのだから。

「ありがと……今度は真面目に受け取っておくわ。」

 私はまるで涼香にでも向けるような自然な笑顔をした。

 だから私は涼香のことを……待とう。

 涼香のことを信じて、涼香の答えが出るその時を。

 

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4話以降見せ場のないせつなが今どんな想いを抱いているか簡単に書いてみました。

名前の通りせつない想いを抱いてますね。一度拒絶されてしまったせつなは自分から何かをするにはものすごい勇気が必要で待つことしかできない。そして、そんな状況の中現われる美優子。『涼香さん』と呼ぶ美優子。いつのまにか、寮の輪の中に入った美優子。

 ……自分以外で初めて涼香と夜を共にした美優子。

 きっと焦りや不安で押しつぶされそうになったことも何度もあったと思います。それでもせつなは耐えてきた。

 涼香のことが好きで、少しでも長く一緒にいたいから。初めて世界をくれた涼香のこと刷り込みのように好きになって涼香を信じて答えを待つ。

 そして、その答えはまだ決まってなく、せつながどうなるかはわかりません。

 

 何を書いてるんだかわからなくなってしまったのでこの辺で。

 個人的には夏樹をもっとぶっきらぼうというか乱暴な言葉遣いにさせたかったけど、うまく出来なかったのが心残りですね。中性的な話し方にしてみたかったのですがどうすればいいかわかりませんでした。あと、昔紅茶のこと色々調べたのをほとんど忘れてしまったのがもったいないと思いました。

 

9-1/9,07/9-2

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