よく晴れた秋晴れの空、美優子が梨奈の部屋を訪れたのはそんな空が高く綺麗な日だった。

「………………………………………」

 美優子は部屋に来てから一言もしゃべっていない。迷いの表情で俯いたまま絡め合わせた指を何度も組み替えていた。

 梨奈は肘を突いて顔を傾けてよくわからないといった顔をしている。

 梨奈は一向に口を開かない美優子を急かしたりはせずただ美優子のことを眺めている。

 ガチャ。

「ありゃ?」

ガチャがチャ

「梨奈―、いないのー?」

 鍵のかけたドア向こうからそんな声が聞こえてきた。

「涼香ちゃん……だけど、どうする?」

 本来聞くまでもなくドアを開けるところだが、今は美優子の意見を聞かなければいけないところだ。何せ、めったにかけない鍵をかけてといったのは美優子なのだから。

 フルフル。

 美優子は小さく首を振った。

「まだ、帰ってないのかな? じゃ、いっか」

 十秒もしないで涼香の去っていく足音が部屋にも響いた。

「また、涼香ちゃんになにかされたの?」

「っ! ち、違います」

(動揺してたら、そうだって言ってるようなものなんだけどね)

 しかし、それをわかろうとも梨奈は無理に聞くような人間ではない。美優子のほうから話してくれるようになるまで待とうと決め、また静かに美優子を見つめた。

「ぁ、ぁの……最近、涼香さん、わたしのことなにか言ってませんでしたか?」

 と、意外にも早く美優子は話し出してくれた。

「何かって?」

「い、いえ、その、ど、どんなことでもかまいません、から」

「うーん、特にはなかったと思う、かな? 前はクラスでどんな様子かってたまに聞いてきてたけど」

「そぅ……です、か」

 安堵のため息をもらしたが、どこか残念そうでもある美優子。

「涼香ちゃんが、どうしたの?」

「……涼香さん、このところわたしといてもつまらなそうっていうか……嫌そうなん……です。みんなといるときはわたしの側に来てくれないし、目も、向けてくれないんです……二人っきりになったりなんてすると……顔も合わせてくれないし、わたしといるの嫌みたいにすぐどこかいっちゃって……」

 言葉を発していくに連れて美優子の顔を歪み声が震えてきた。

「わ、わた、っし…ヒック…すず、かさん……っに、嫌われちゃったん、でしょう、かっ……?」

「ちょ、ちょっとまって! 嫌われるって……」

 美優子の唐突な言葉に梨奈は狼狽した。

 美優子が何を言っているのかよくわからなかった。涼香と一緒にいるところはよく見るが特につまらなそうには見えなかった。特別に涼香のことを観察していたわけではないがそんなあからさまに疎ましがっているよう様子はなかった。

いや、それ以前に今言ったことだけで嫌われてるって思うのは理由が弱い気がする。

(……………そっか)

みんなといるとき側に来てくれないことに気づいたり、自分のことを見てくれるか気にするなんて、まず美優子がその人のことを見ていないと気づくことじゃない。

(好きなんだ、涼香ちゃんのこと)

 少し前からもしかしたらとは思っていたけど、やっぱり。

 梨奈は自分のことではないのに複雑な顔をした。

(今は美優子ちゃんのことをなだめてあげるほうが大事、だよね)

 確かに好きな人のことだと些細なことだって不安に感じちゃう。それは梨奈も一緒。身をもって知っていることだ。

 だけど、嫌われるって思うには……

「何か心当たり、あるの? 涼香ちゃんに嫌われちゃうって理由」

「!!!」

 大きく体をビクつかせる美優子。やはり、思い当たることがあるのだろう。

「わたし……きっと、勘違いしてたんです。涼香さんが、優しいのなんて……みんなになのに、わたし……ひく……自分だけが特別なんだって、一人で舞い上がっちゃって……」

 みるみる内に泣き顔に変わっていき、声も段々と小さくなっていく。

「だから、あんな、こと……涼香さん、っは、そんなつもりじゃなかった、のに……わたし。……涼香さん、きっと、わたしのこと…こう思って、ます。……自分、勝手で……、ぇっ、ち……な子だって。だから、……わたしなんかといたく、ない、ん、です……」

 美優子は穴があったら入りたいとでもばかりに声どころか体まで小さくなって見えた。

「私は、涼香ちゃんは美優子ちゃんのこと好きだって思う」

 そんな美優子に梨奈はあっけらかんと答えた。

 正直いって、『あんなこと』とか、後ろのほうでいってたよく聞こえなかったこととかよくわからないが梨奈ははっきりと自分の思っていることを口にした。

「え……?」

「あ、どういう風にどれくらい好きかっていうのはわからないよ。でも、少なくても絶対に嫌ってなんかいないんじゃないかな」

「…………」

「涼香ちゃんはね、きっとどうしたらいいかわからないんだと思う。涼香ちゃんは優しいから。だから……」

 自分のことだけじゃなくて、せつなちゃんと、美優子ちゃん二人のことを考えちゃうんだよ。

(……これは美優子ちゃんに言う必要ないよね)

「……だから、待っててあげたらどうかな? 涼香ちゃんがきちんと美優子ちゃんに答えてくれるまで。それまではいつも通りでいいと思う」

「でも……」

「じゃないと、涼香ちゃんも困っちゃうよ。美優子ちゃんが涼香ちゃんのこと避けたりなんかしたら涼香ちゃん、悲しいと思うなー」

 美優子の気を引くように言ってみるが、美優子が言うように美優子のことを避けてるんだとしたら近づかないほうがいいかもしれないとは思う。しかし、多分そうなったらなったで涼香はそのことを意識してしまう。なら、美優子をさけて答えを出すよりは美優子とせつな二人と向き合って答えを出してもらうほうがいい。

「…………」

「いいから」

 なかなか了承してくれない美優子をなだめながら梨奈は

(にしても、涼香ちゃんは大変だなー)

 と思わずにはいられなかった。

 

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 はい、中途半端ですがおしまいです。こっちは9,03に比べてかなり適当でやっつけ仕事な気がしますね。まぁ、9,03のほうもおまけのようなものですが。

おまけというよりは少しこの二人の今を知ってもらいたかったのかもしれません。

美優子と梨奈、二人の言葉に無理がある気もしますけど、この二つのおまけは内容、量ともに似たものにしようと思ったので、双方色々省いたりしてます。

読み返してみると、美優子に「、ぇっ、ち……な」って所絶対にいらないと読み返すというか書いてるときからわかってましたが、これは美優子に言わせて見たかっただけですw

 あと、夏樹や梨奈の涼香、せつな、美優子に関しての感想はあくまで彼女たちの主観です。涼香がどのように考えているかわからなく、まったく別のことを想っているかもしれません。

それと、夏樹は美優子と接点はほとんどなく美優子のことをよくも悪くも思っていません、なら友達であるせつなを優先して考えるのは当然です。

 また、梨奈は美優子とは同じクラスでおそらく美優子とは一番時間を一緒にいた人です。さらに美優子が自分を頼ってきたという事実も手伝い、美優子のための言葉選んでますが、はっきりと美優子の味方というわけではありません。天秤が少し傾いている程度です。どちらにとは言いませんが。

 夏樹と梨奈の火種になったらそれはそれで面白いかもしれませんが、昔妄想してた夏樹と梨奈の話すら書いてないので、多分また妄想にとどまるでしょう。

 

9,03/9-1/9-2

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